空前のサウナブームと言われている中、新しい形のサウナを展開する施設も増えている。2020年8月、秋田県仙北市にオープンしたフィンランド式サウナ『タザワコサウナ』もそのひとつだ。
最大の特徴は、水風呂の代わりに日本百景にも選ばれている景勝地、田沢湖にダイブできるというもの。完全個室のプライベート空間でサウナが楽しめるという点と、透き通った田沢湖畔の絶景が楽しめるとあって、いま注目を集めている。
タザワコサウナを運営する八嶋誠さんに、田沢湖でサウナをはじめたきっかけと湖畔サウナの魅力を聞いた。
フィンランドと秋田の共通点
「ぼくは田沢湖のある秋田県仙北市出身。高校卒業後から東京で暮らしていましたが、3年前父の死をきっかけに地元へ帰ってきました。
突然の父との別れを経験し、明日自分が生きている保証なんてどこにもないと実感してからは、自分の人生に後悔がないように生きていきたいと思うようになりました。地元で何かできないかと模索する中、そのときハマっていたサウナが頭に浮かんだんです」
大のサウナ好きだった八嶋さんは、『雄大な田沢湖を水風呂として使ってみたい』という昔からの願望を叶えるべく、自ら事業化することを決意。
理想のサウナ像を形にするため、日本各地のサウナ施設だけでなく本場フィンランドまで足を伸ばした。
「秋田でサウナをやろうと決意した大きな理由は、フィンランドと秋田を比較したときに気温の変化であったり、雪の中での生活といった文化的な条件がとてもよく似ていたからです。フィンランドではサウナで温まった身体を湖や川でクールダウンさせる習慣がありますが、自然に囲まれたロケーションの中でサウナに入るという点も、ぼくが目指したサウナ像そのものでしたね」
解放感をぜひ体験してほしい
フィンランド式サウナは、ロウリュと呼ばれる方法で楽しむのが一般的と言われる。
薪をくべたストーブにサウナストーンを乗せ、水をかけて蒸気を作り出すことで体感温度と湿度を上げていく。タザワコサウナでは個室で利用ができるため、好みの温度でサウナが楽しめるのも嬉しい。
そしてタザワコサウナ最大の魅力は、田沢湖の絶景に他ならない。1年を通して彩りが変わる田沢湖は、季節によってサウナの楽しみ方も変わってくる。
夏は水温が30℃近くまで上昇するため、水風呂が苦手という方でも気軽に楽しめることができるし、冬には水温5℃前後の刺激的な水風呂が体験できるのだという。
一度来たら、虜になる。それを物語るように予約の8割はリピーターだ。オープンからわずか2年足らずで満席状態が続いている。
「皆さん、田沢湖のファンになって帰っていく。テントサウナも魅力的だけど、やはり田沢湖の吸い込まれるような景色と解放感には敵いません。ぼくのサウナ経営も、田沢湖にダイブしたいという願望が全てのはじまり。同じように田沢湖のファンになってくれることが一番嬉しいです」
大自然に身を任せる解放感をぜひ体験してほしい、という思いこそが八嶋さんの活動の原動力だ。
清掃活動を続け、自然環境を守りたい
しかしながら田沢湖周辺は、観光として寂しさを感じる部分は否めない。仙北市は乳頭温泉郷、角館の武家屋敷といった観光資源が豊富なだけに、「今後は観光地を巡ってもらえるよう展開していきたい」と八嶋さんは話す。
八嶋さんは現在、田沢湖畔のアクティビティ活性化に力を注ぎながら、湖畔の清掃活動も行っている。2021年は清掃ボランティアで、多くの人と協力をして清掃活動を行った。活動の中で『田沢湖を守りたい、綺麗に保ちたい』と感じている人が、自分以外にもたくさんいることを実感したという。
「田沢湖を大切にしたいという思いは皆さん同じです。これからも自然環境を守りながら、タザワコサウナの水風呂としても綺麗に保っていきたいですね。やはり田沢湖あってのタザワコサウナですから」
田沢湖を愛してやまない八嶋さんがおすすめする季節は、暖かくなりはじめた春から夏にかけて。水温が20℃前後になるころが気持ちよいとのこと。
サウナで温まった身体のまま、目の前に広がる田沢湖にダイブする。空を仰いでプカリと漂うと、まるで大自然と一体化したような感覚が味わえる。その圧倒的な開放感はここでしか体験できないものだと八嶋さんは話してくれた。
サウナ好きでなくとも一度は訪れたいタザワコサウナ。まだまだサウナブームの熱が冷めることはなさそうだ。