2015年10月から2年間、中央アジアに位置するキルギス共和国のビシケク人文大学(現ビシケク国立大学)に、JICA海外協力隊の日本語教育隊員として派遣された西條結人さん。
大学在学中、スペインへの留学をきっかけに外国語や日本語教育に一層興味をもち始める。大学院に進み、協力隊の話を指導教員や経験者から聞いて、『自分も海外で日本語教育に携わりたい、自分の知らない世界を見てみたい』と思い、協力隊への応募を決意した。
キルギスとの出会い
西條さんが赴任したのは10月で、現地では9月からすでに新学期が始まっていた。
赴任当初は担当授業がなく業務内容も掴めなかったため、3か月間は授業見学をはじめキルギスの日本語教育に関する資料や、現地の学校で使用されている教科書を読んだり、学部の教員会議に参加させてもらったりと情報収集に努めた。
「あの時は、何のためにキルギスに来たのだろうと毎日悩みました。食事もどこでどのように買っていいのかわからず、大学内でカップケーキばかりを食べ続けていると同僚に『もっと栄養のあるものを食べないとだめです』と大学の食堂にレンズ豆のスープや炊き込みご飯があること教えてもらったんです。また、『キルギスのためにやってみたいことがあれば、遠慮しないでなんでも言ってください』と声をかけてもらった時は、これまで一人で抱え込んでいた悩みが救われました」
キルギスでの活動は主に2点、日本語教育支援とキルギス日本語教師会の会員としての活動だ。学部や大学院での日本語科目や比較文法論といった専門科目、卒業論文指導などを担当。
YouTubeに「キルギス日本語チャンネル」を立ち上げ、同僚の教員や学生とキルギス文化を日本語で発信することにも取り組んだ。
また、教師会の活動としては、日本語能力試験や日本語弁論大会の実施、大使館の要請を受け日本語教育が行われていない地域で日本文化の普及活動も行った。
大学教員として、キルギスとの懸け橋の役割も
2018年4月から四国大学全学共通教育センターで、留学生に対する日本語教育科目や日本語教員養成課程を担当している西條さん。
授業の中でも協力隊体験を話すことがあるそうで、学生からのアンケートには、授業内容はそっちのけで「先生の体験エピソードが何よりも楽しみです」と書かれていることもあるという。学生にとって、途上国の話題は、新しい視点を得る機会になっているようだ。
研究調査や国際交流のために、年に1度キルギスを訪れるという西條さんは、ビシケク国立大学から名誉准教授という称号が授与されており、2019年には四国大学とビシケク国立大学は学術協定を締結。2022年4月には、キルギスから初の交換留学生を受け入れる予定だ。
「称号は恐れ多いが、キルギスでの活動を評価していただき、誇らしいです」と笑顔で話す。
地域における日本語教育について
外国の人材の受入れニーズが高まる昨今、日本語教師の資格検討などの流れを受けて、2020年4月、四国大学は文学部に「日本語教員養成課程」を開設した。西條さんは、その立ち上げに関わった一人でもある。
地域社会における日本語教育の課題・可能性について西條さんは、
「日本での外国人受入れにおいて日本語は切り離して考えることはできません。日本語教師でなくても、日本語教師養成講座を受講した方や地域コーディネーター、学習や生活支援サポーターなど今後幅広い人材が必要になると思います。このような人材が地域にいること自体が大きな価値・社会的意義であり、学習者に対して日本語を教えるだけではなく、学習者から彼らの国や文化、言語を知り、受容しようとする姿勢が大切ではないでしょうか」と語る。
また、四国大学の日本語教員養成課程では、留学生も学んでいる。
「留学生のような日本語学習者は、学習の経験が大きく生きてきますし、彼らの言語で学習者に説明することができるので、大きな強みです。これからは非母語話者教師の養成にも力を入れていきたいです」
大学院時代の指導教員から、「自分が面白いと思う授業をしなさい」と言われたことを胸に刻み、日々授業をしている西條さん。
「夢を追う学生に対して、教員も夢を求めなければいけないと思います。私自身今まで学習した言語を通して、自分の知らない世界を見ることができ、私にとって言語は“栄養剤”みたいなものです。これからも自分のまだ知らない世界を見ることに挑戦したいと思っています」と意気込む。