ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1か月余り、避難民は日毎に増加しています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のまとめによると、ウクライナからの近隣国への避難民の数は3月29日時点で400万人を超えました。
3月17日、スペインのサンタンデール市にあるサルディネロ小学校は、3人のウクライナ人の生徒を受け入れました。2年A組のクラスに転入した8歳のミラ・メルニクちゃん(仮名)。父親はウクライナに残り、3歳の妹と母親と共にスペインへやってきたといいます。
転入初日。スペイン語の分からないミラちゃんを率先して助けたのは、同じクラスのロシア人の男の子アンドレイ・コトフ(仮名)くんでした。
ロシア人の生徒がサポート役に
「ウクライナ語とロシア語は似ているから、ぼくが手伝うよ!」
そう名乗りをあげたアンドレイくんは、ロシア語が少し理解できるミラちゃんを積極的にサポートしています。
「初日は携帯の翻訳アプリで対応しました。次の日からはアンドレイが進んで通訳をして助けてくれました。『校庭に遊びに行こう!』と声をかけたり、『今からみんなでこれするよ』と説明したり。ミラが来て、アンドレイもとてもうれしそうにしています。ミラを助けていることが自分の自信にもつながっているようです」
そう語るのは担任のモンセ・ラット先生。21人の生徒を受け持っています。
ミラちゃんがモンセ先生のクラスになったのは、隣のクラスよりもひとり少なかったため偶然のことだったそうです。
「アンドレイがいてくれたことで、ミラも心強かったのではないかと思います。ミラは英語も少し話せるので、がんばって英語でコミュニケーションを取っている生徒もいます」
転入2日目、ミラちゃんは結膜炎になり、学校を1週間休んでしまいました。
モンセ先生はその間に、クラスのみんなで「2年A組へようこそ」という意味を込めて、ウエルカムカードを描こうと提案します。
その時に描いたアンドレイくんのカード(冒頭の写真)を見て、モンセ先生は胸が熱くなりました。
「アンドレイが描いたカードには、ウクライナの国旗とロシアの国旗、下には両国の代表が手を繋いでいる絵が描かれていました。それをみて、ああ、きれいだな、と。子どもの世界ってなんてきれいなんだろう、と思いました」
子どもの世界はとてもシンプル
デリケートな問題を抱えた子どもが言葉の通じない国に来て、無事馴染むことができるのでしょうか。
その問題を解決するため、モンセ先生には意識していることがあります。
「一番重要なのは、クラスに居て『心地良いな、楽しいな』と思ってもらうことです。勉強はその次。今は彼女の心を一番大切に向き合っていきたいと思っています」
「複雑な問題があるのは大人の世界だけ」とモンセ先生は続けます。
「子どもの世界はとてもシンプルです。1日楽しく過ごせたら、子どもたちは幸せ。クラスの子どもたちには複雑な説明はしません。新しい友達がウクライナから来たよ、と言うだけ。ウクライナで戦争をしていることは子どもたちも理解しています。ただそこに善悪はない。子どもの世界はピュアできれいなんです。わたしはそれを大切にしたいと思っています」
言葉が分からなくても国が違っても関係ない
突然のウクライナからの転入生に、喜んでいるのはアンドレイくんだけではありません。同じクラスのルシア・フエンテちゃんもそのひとり。
「ウクライナから転校生がきて友達になったよ!」と、学校帰りウキウキした声でお母さんに話しました。
「休み時間に、ミラがウクライナから持ってきたぬりえを貸してくれて一緒に色を塗ったの。他のお友達がポップイット(プッシュポップバブル)を貸すと、「グラシアス(ありがとう)」って言ってたよ。スペイン語はまだ“グラシアス(ありがとう)”と“シー(はい)”しか分からないんだって」
ルシアちゃんは「言葉が通じなくても気にしない」と言います。
「ミラはスペイン語が話せない。だからお互いが分かる英語の単語で話すの。それも分からないときは顔や手で話をするの。とってもおもしろいよ。どこの国から来たとかも関係ないんだ。ミラの国では戦争をしているの。戦争って絵本の中のことだと思っていたけど違うみたい。わたしがミラと同じ立場だったらとても怖いと思う。でもミラはがんばったね。国境を越えて来たんだって。わたしは、ミラがスペインに来てくれてうれしいよ。これからも一緒にいろんなことして遊びたいな!」