子どもの習いごとや好きなことへの環境づくりに悩む親は多いのではないだろうか。
横浜市にあるNPO法人大豆戸(まめど)フットボールクラブ(以下、大豆戸FC)は、「子どもたちが主役」をコンセプトにしているサッカークラブだ。
サッカークラブでありながら、答えのない時代を生きる子どもたちの「根っこ」を育てることをビジョンに掲げる大豆戸FC。今回は、子どもの思考を止めない関わり方や主体的に成長するための関わり方を大豆戸FC指導者の楠永謙蔵さんに聞いた。
子どもに任せることの大切さ
高知県で7年間小学校教諭をしていた楠永さんは現在、大豆戸FCのU-11コーチとして子どもたちと関わっている。
「学校の勉強には最終的な答えが必ず用意されているんです。先生はその答えに生徒を誘導していくような指導をします。これでは子どもの主体的な考え方は育まれないのではないかと教諭時代は感じていました」
大豆戸FCは余白を残す指導方法を積極的に行い、子どもたちに考える時間を与えている。
「サッカーの指導中は、今のプレーはどうだった?とよく聞きます。子どもたちがそのプレーの意図を話したあとでアドバイスや選択肢を与えるように意識していますね。この経験を積み重ねると5、6年生になる頃には、提案されなくても試合中に子どもたち同士で意見を言い合えるようになるんです」
サッカーは、常に判断することが必要なスポーツだという。
子どもを応援したり喜びに共感することも大切だが、プレー中やプレー後に周りから指示をすることで、子ども自身の判断を奪い思考を止めてしまうこともあるそう。関わる大人が、子ども自身の判断を待つことで、子どもは大きく成長するのだという。
そして、成長するのは子どもだけではない。大豆戸FCの考え方に共感した保護者は、自分たちも成長できたと声を揃えて話す。
小さな成功体験の積み重ねが将来のトリガーになる
大豆戸FCの合宿はサッカー以外に別の活動も行っている。夏は大島でサマーキャンプを行い、冬はスキーキャンプを楽しむのだ。
「夏のサマーキャンプは、テント設営を子どもたちが行います。キャンプ経験がある子は、テント設営ができない他の子を手伝うんですね。子どもたちの中でもサッカーの序列がある中で、サッカーとは違う場面で友達に良さが分かる貴重な体験だと思っています」
年齢が上がるにつれて試合に勝つためにスタメンが決まっているチームが多くある中、“一人一人が主役”をコンセプトとしている大豆戸FCは、試合数を管理しチーム全員が試合に出られるようにしている。
「サッカーをしているのに試合に出られないのは子どもたちにとって楽しくないので、チーム内でグループ分けをしてみんなが試合に出られる仕組みを作っています。楽しいからサッカーが上手くなりたい思い、その中で仲間を理解しなければいけないと子どもたちは学ぶんです。サッカーをやっていたら自然と社会性が身についていたという形を大豆戸FCは目指しています」
また、試合の遠征では、子どもたちが自ら電車での行き方を調べて試合会場に向かうという。
「3、4年生の時はコーチが帯同することもありますが、徐々に子どもたちに任せます。子どもたちが自分で調べて目的地に向かうのでルートもそれぞれ違えば、時間ギリギリに着く子もいます。でも、自分でできたという小さな達成感が子どもたちの自信になっていくんですよね。このような成功体験の積み重ねが大切だと思います」
大人は子どもが歩く砂利道を少し直すくらいでいい
困っている子どもに手を差し伸べたり答えを教えるわけでなく、考える余白を与える。
大豆戸FCの“待つ指導”に理解がある大人の中で育った子どもたちは自らの力でどんどん伸びていく。
子どもの気持ちを尊重し任せてみる関わり方を大豆戸FCは実践している。
「教諭時代のカウンセラーの先生に、『大人の役目は、子どもが歩く砂利道にある乗り越えられない岩を砕き、歩きやすいように整えてあげてあげることだよ』と教えられました。転びそうになったら後ろから支えてあげればいい。大豆戸FCでやっていることは、まさしくこれだと思います。これからも指導は続きますが、子どもたちが主体的に取り組む中で気づきを見つけ、よりサッカーを好きになってもらいたいし、サッカー以外の事にも興味を持ってもらいたいです。そのための手助けができるようなコーチになりたいと思っています」