「消しゴムが力を貸してくれる」 会社員時代から独学で…消しゴム版画作家

「消しゴムが力を貸してくれる」 会社員時代から独学で…消しゴム版画作家
消しゴム版画作家・大倉朗人さん

色が少しずつ違うリンゴがずらり。

④版画展チ…シ
④版画展チ…シ

艶やかな光沢があって、輪郭がすっきりと潔い。これが消しゴムを使って制作されたものだというから驚きです。

同じ絵柄を繰り返すことができるのが版画の魅力のひとつ。

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普通の文具店で買える道具から生まれる作品

高松市在住の大倉朗人さんの作品です。大倉さんが制作で使うのは、はがきサイズの消しゴム板と2本の彫刻刀。

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そして水性と油性のインクが200色ほど。どれも普通の文具店で買ったものだそう。

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リンゴの版画を制作する過程を見せてもらいました。すでに彫ってある消しゴムの上で、インクをポンポンポンっと調合していきます。

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そしてぎゅーっと体重を乗せて紙に押し付けて……。

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呼吸を整えてからぱっと持ち上げると、鮮やかなリンゴがくっきりと。リンゴのへたの部分は「別のパーツ」でぽんっと押します。

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こうすることで、境界をくっきりと描き出せるためです。

会社員時代に探し、出合った趣味が高じて

大倉さんが制作活動を始めたのは15年前。47歳の時でした。

四国電力の社員だった大倉さんは、年賀状の準備をそろそろしなければと思って書店に立ち寄り、一冊の本を手にしました。我那覇陽子さんの『消しゴムで和のはんこ』という実用書です。

それまでゴルフなど、人並みの趣味はあったものの、何か新しい趣味を探していた大倉さんの心が動きました。

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「できそうだな、面白そうって思ってモクレンのデザインを本から写して版画にしてみたんです。でも年賀状には間に合わなくて、年が明けてから寒中見舞いとして出して」

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こちらは、始めて5か月目くらいに制作した作品「ツツジ」。赤を2種類使い分け、つぼみも付いています。よく見ると、この頃はまだ、枝の部分は色鉛筆で描いています。

「まだまだ稚拙ですね、今見ると」 

偶然が重なって作家人生が進み始める

段々作品もたまってきた頃に、偶然が重なりました。勤務先近くの市民ギャラリーでたまたまキャンセルが出て”穴”が空き、「ぜひ作品を飾ってください」と頼まれました。

さらに偶然は続きます。個展を開いたのは”勤務先近くのギャラリー”。会社の広報部の人が目を付けました。毎年、四国電力が得意先などに配る新年のカレンダーに、大倉さんの版画作品を採用することにしたのです。大倉さんは、こんなふうに笑って話します。

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「それまでは芸術の大家の作品を載せていたのですが、ちょうど震災後で、社内でもコストカットが必要だったんですよ」 

対象は静物、風景 ポップなものを作ると反動も

②星降るせとしるべ
②星降るせとしるべ

こちらの作品は、高松市を訪れたことがある方は「あっ」と思うことでしょう。高松港のシンボルともなっている、ガラスで出来た赤灯台のある風景です。

③ローズマ…といちじく
③ローズマ…といちじく

オシャレなランチョンマットの上に豆皿にのったイチジク、ローズマリーを添えて。この作品は第26回日本はがき芸術作家展大賞を受賞しました。

大倉さんの作品には、コースターを台紙に使ったものも多くあります。あの、コップの下に敷くコースターです。

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「徳島県の池田支店に勤務してる時期に、支店で大きな会議があったんですよ。それでお茶を出すコースターに、徳島ならではのスダチだったかな。それを消しゴムハンコで押して。それが始まりだったんですけど、並べてみると隙間がダイヤ型になってなかなかいいなと思って」

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こうした作品136点を2021年12月、一冊の本にまとめました。「消しゴム版画の贈りもの」(発行・発売 株式会社tao)です。

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大倉さんの制作開始から15周年の記念でもあります。

「消しゴムが力を貸してくれる」

思わずこんな質問をしました。版画より描いた方が早いんじゃないですか、と。

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「いやいや。消しゴムが力を貸してくれるんです。私が描いたらこんな線はよう描けない。消しゴムだとエッジが立つんですね。色のグラデーションも筆では無理。筆の跡が残っちゃうので」

とはいえ、最初の想定通りに制作が進むと「きれいにできたね」という程度で終わってしまうそう。インクがかすれるなど、失敗したところから作品の方向性が変わって、元のものとはまったく違った作品が生まれるのが醍醐味だと言います。

仕事と制作活動 別世界で生きる

仕事をしながら制作活動を続けてきた大倉さん。当然、制作にかけられる時間は限られています。そんな中で1時間でも30分でも、とにかく「必ず毎日」消しゴム版画に取り組んでいます。 

「必ず毎日しないと、落ち着かないんですよ」

仕事と制作活動は「別世界」だと表現します。消しゴム版画では仕事と違って「ここで稼ぐ」という感覚が生まれません。

「版画をしなければ会わなかった人、行かなかった場所とどんどんつながっていくんです。作品を披露すると意見をもらえる。ヒントをいただける。発見がモチベーションが続く基となっています」

定年退職後、現在はよんでん文化振興財団で常務理事を務めています。

「上司にも部下にも恵まれて、幸せな会社員人生だった」と振り返る大倉さんに、筆者を含めた働き盛りの世代へメッセージをお願いしました。

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「『自分はこれを好きでやっている』という軸が出来ると、迷いやふわっとした不安から助けてくれます。人には必ず『好きなこと』があるはず。それを思い返してみてほしい。そして本当に熱中できることを続けていく。40代で見つけることができれば、10年経つとそれなりのものになるでしょう。好きから始めるといい循環が巡って生きがいが生まれます」

大倉さんの作品は、3月22日から高松市のサンポートホール高松市民ギャラリーで実際に「出会う」ことができます。(大倉郎人の消しゴム版画展 -SEASONS・時の色-)

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