2022年2月23日、東京築地の住宅街にアートを通して創造力や思考力を身に付ける遊び場「クリップ」がオープンした。クリップは2019年2月に上野でスタートしたが、ビルの老朽化のため2021年5月に閉店となり、今回の築地店は再オープンという形だ。上野店は2年間の中で半分の期間がコロナ禍に見舞われ、厳しい状況での営業だった。
しかし、オープン当初から宣伝をあえて行わなかったにも関わらず、クリップを利用した親子は約5000組に及んだ。ウェブサイトや店舗で行なっていたアンケートの顧客満足度も軒並み高評価だ。
「クリップに来るようになって絵に苦手意識を持っていた子どもたちが、絵を好きになったり、周りが驚くような絵を描くようになったというお話は結構聞きますね」
そう話すのは、クリップオーナーで4人の子どもの父でもある木村歳一さんだ。
幼少期から感じていた学校への違和感
木村さんは現在上野で、曽祖父が始めた老舗書店「明正堂」を営みながら、クリップの運営を行なっている。
「30歳になった頃、家業だった明正堂の経営が大変になり手伝うことになったんです。その後、タイミングを見て正式に家業を継ぐことにしました」
同時期に、ビジネスに関する知識がないことからオンラインの大学に入学する。
「大学でビジネスの勉強をしていく中で、人と違う発想ができて、それを人に伝えて行動に移しやり遂げる力が大切だなと学びました。それに反し、早く正解を求めることが良いとされる今の学校の教育に疑問を感じました。僕自身、幼少の頃からみんなで同じ勉強をすることや、自由に描いた絵が大人の価値観で判断されることに違和感を感じていたんです」
子どもたちにとって必要なことは、大人の価値観にとらわれない自由で主体的な遊びなのではないか。
そんな頃、上野にある明正堂の事務所に空きができた。新しい事業として何か始めようと考えていた木村さんは、ここに子どもたちが自由に遊べる場クリップを作ることを決断した。
主体的な遊びは感性や創造力を育む
クリップで遊ぶ子どもたちは、普段できないようなアート遊びに夢中になっている。
アクリル板に思い思いの絵を描く子、パレットの絵の具をひっくり返して絵の具が混ざり合うのを眺める子、粘土を投げて遊ぶ子。
どう遊んでも良いのだ。子どもが主体になって遊ぶ事で、その子にしかない感性を育む。
クリップでは、一緒に遊ぶ大人に向けたルールがある。
その中の一つが、「上手だね」という言葉は使わないというものだ。
「『上手だね』という言葉は、大人から見た価値観です。この声かけをすることによって、子どもは次から大人に褒めてもらえるような絵を書こうとする。子どもの創造力や達成感を大切にするには結果じゃなくプロセスを見てあげることだと思うんです。だから、子どもが作り終えた達成感を共有したり、こだわったところを見つけて褒めてあげてほしいですね」
自由な表現を小さな頃から積み重ねることが生きる力となる
再オープンした築地店では、新たに木工遊びができるエリアも作る予定だ。
「木工での工作を加えることで、小学生の子どもたちにもっと楽しんでもらえる場所になるかなと思っています。正しい使い方を徹底した上でノコギリも使えるようにしたいですね。お母さんたちから見たら危ないのではと思われるかもしれませんが、ナイフのように触ると切れるものではないんです。あえて少し危険なものに触れることも子どもにとっては大事な経験です。小さい子どもでも木に触れて遊べるように、実際のボルトとナットで木のブロックを組み立てられる遊びもできるようにする予定です」
クリップは遊びを通して子どもが学べるだけでなく、親の気づきの場でもある。
「見本も説明もなく『絵を描いて』と言われると、大抵の大人は固まります(笑)子どもがいきなり絵の具でピチャッとやることで、自由にやって良いんだと気付かされるんです」
大人も子どもも関係なく同じ目線で楽しめる場所はコンセプトのひとつである。
「周りからの評価は関係なく、自分の好きなことを表現したり作ったものを大切にする気持ちを小さい頃から育んで欲しいですね。公園に遊びに行くような感覚で気軽に来てもらえたらと思います」