「夢は『ロケ地と言えば、岡山だよね』と言われることですね」
そう語るのは、岡山県フィルムコミッション協議会(以下、FC協)に所属する、妹尾真由子さん。フィルムコミッションコーディネーターとして活躍し、映像制作会社と、地元・岡山の人たちを繋いでいます。
妹尾さんがFC協専任担当になった2016年度から2020年度の5年間、ロケ支援総数は199件。映画やドラマに加え、テレビ番組やCM制作、ミュージックビデオや写真集の撮影など、多岐に渡ります。映像制作会社の人たちからの信頼も厚く「何かあれば岡山に相談する」と言われたり、何気ない雑談電話から仕事に繋がったりすることも多々あるとか。
そんな妹尾さんのFC協としての活動、そして原点を取材しました。
“ロケ地”としての岡山の魅力とは
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の舞台として話題になった岡山。また、4月に公開を予定されている映画『とんび』『劇場版ラジエーションハウス』など、岡山ロケの作品が目を惹きます。
妹尾さんによると、ロケ地としての岡山には、海や島、山、古い街並みなどが豊富で、映像撮影には好条件が揃っています。また市街地には「作品の世界観を邪魔しない風景がある」と妹尾さんは語ります。劇中の架空の街を設定する際、特定の街感が出てしまうことを避けられるというのです。
妹尾さんは「岡山には、素晴らしいロケーションはたくさんあるのです」と迷いながら、「京橋」「瀬戸内海」「金光町大谷地区」を紹介してくれました。
「京橋は、レトロな風情のある京橋の上を路面電車が走り、奥には高層ビルなどが建つ雰囲気が選ばれています」
「瀬戸内海は、内海の穏やかさ、多島美が特徴です」
浅口市金光町の大谷地区では、4月8日全国公開の映画『とんび』の撮影で、大規模封鎖を行い、町全体を美術装飾で施しての撮影が実施されました。
映像制作会社から相談を受けるロケーションのイメージを掴みながら「しっかりとした情報で問い合わせてくれた方々にひとつひとつ応えています」と妹尾さん。
例えば「田舎」というキーワード1つにしても、さまざまなシーンが連想されます。どんな「田舎の風景」をイメージしているのか、民家や畑の程度はどのくらいなのかなど、深く追求。作品に近いイメージのロケ地を選ぶため、自分でロケハンを繰り返したり、地域の人たちに協力をお願いしたりして、情報を「しっかり」したものにしているのです。
地元と制作会社、どちらもウィンウィンに
放送中のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では、太平洋戦争前後の岡山の歴史を深掘りし、よりリアリティを追求するサポートを行いました。
「『カムカムエヴリバディ』で3分ほどのお祭りのシーンがあったのですが、太鼓や獅子舞のシーンを映像として残すため、岡山の地元の人たちが京都の撮影所まで赴いてくれ、エキストラとして短いシーンのために1日かけて撮影に協力してくれました」
ロケ撮影には、地元の人たちの協力が不可欠。しかし交通規制などの“非日常”もあり、混乱を招くこともあります。特に、コロナ禍での撮影は通常業務に加え、予防以上の対策が必要です。見物客に密にならないようにお願いをしたりなど、難しい調整を日々こなしています。
しかし、作品の魅力を通じて、ロケ地として注目を浴びるようになれば、プロモーションや知名度、観光客の増加など「次のステップ」が見込まれます。
「調査や努力してくれた地元の方に対し、地元の人たちと制作会社、どちらもウィンウィンになる結果を出したいと思っています。次のステップへ繋がる核になると信じて」
地元・岡山に恩返しを
妹尾さんの地元・岡山県矢掛町は、かつて宿場町として栄えた町。幼い頃から町の行事「矢掛の宿場まつり大名行列」を見て育ち、「町にできることはなんだろう」と感じていたことが、妹尾さんの原点です。学生時代には観光系の学部で地域活性について学びました。
卒業後は地元に戻り、矢掛町役場の職員として勤務。企業誘致から観光パンフレットの制作、ガイド案内、ご当地キャラ・やかっぴーの盛り上げなど、幅広い業務をこなしました。
「当時、FC協からロケ地に関する問い合わせがあっても、やり取りに手間取ったりして、困難を感じたこともありました。しかしこの経験が2016年、2年限りのFC協窓口への異動となった際にいきたんです」
その後2018年に退職し、今は専任職員として活躍する妹尾さん。地元の人たちが映像作品を通じて岡山の魅力に触れ、「岡山っていいところだよね」と岡山の再発見に繋がる場面に遭遇することも多く、それが「やってよかった、嬉しい」というやりがいになっているそうです。
「この仕事は、さまざまなものが派生できる事業です。他にも何か“希望”を見出せるのではないか、と。現状になまけず、広い視野を持って取り組んでいきたいと思っています」