インディカ米最高級の香り米「バスマティ」と日本の「日本晴れ(ニホンバレ)」を親にもつ「サリークイーン」は、茹でると、ポップコーンのような香ばしい香りと細長いフォルムが特徴の米です。最近人気のスパイスカレーはもちろん、家庭で食べる“いつものカレー”、炒飯、パエリアに使うと、粘りが少なくサラサラした仕上がりで、料理のレベルが格段にアップしたような気分に。岡山市でサリークイーンを約30年作り続けてきた柴田農園の柴田雅人さんに話を聞きました。
小麦に負けないインパクトある米作りを
兼業農家の柴田雅人さんは、サリークイーンの魅力に早くから惚れ込み、コツコツと自宅前の田んぼで少量を作り続けてきました。
サリークイーンは、1990年頃、筑波の研究所で開発された日本の米。「さまざまな特性を持った世界のお米を掛け合わせて品種改良することは珍しいことではありません。しかし、インディカ米の姿をまとった日本の香り米が登場したのは、当時としては挑戦的な試み。さまざまな米の中でも、サリークイーンのバランスの良さに惹かれました」と、柴田さんは振り返ります。
さらに、「私自身、若い人の米離れを危惧していました。パンやパスタ、ラーメンなど小麦を使ったおいしいものがたくさんある中で、ガツンと強烈なインパクトを持った米作りにシフトしないと、お米に未来はないと考えてきました」と話します。
理解されなくとも毎年コツコツ栽培
それから柴田さんは20年近く、サリークイーン約100キロを細々と自宅用に栽培してきました。当初、その魅力はなかなか周りから理解されなかったといいます。
10年前から、しだいに口コミで広がり需要がでてきたため栽培量を増加。現在は30アールで1トンを収穫しています。
最初は、酒米の朝日米を納めていた酒蔵からの縁で、大阪の酒店でサリークイーンの販売をスタート。スパイスカレーブームに乗って、しだいに販路を広げ、関東や関西圏の小売店や飲食店でも扱うように。岡山県内でも2021年から、セレクトショップやワインショップ、飲食店など、柴田さんのサリークイーンを扱うところが一気に増加しています。
サラサラとそうめんのような喉越し
柴田さんに調理法をレクチャーしてもらいました。
炊飯器でも調理できますがオススメは茹でるやり方。
サリークイーンをまず30分間浸水。そして茹で時間はなんと「3分のみ」。
茹で上がったら水気をきって、寿司桶や大皿に広げ一気に湯気を飛ばします。すると、サラサラとしたお米の出来上がりです。
「まずは、普段のカレーライスで食べてみてください。粘りの強い日本の米との違いに気づくはずです。そうめんのような喉越しで、サラサラっと何杯もおかわりしたくなりますよ。余れば、炒飯がオススメ」と柴田さん。
倉敷市の小崎由美子さんもサリークイーンのファンの一人。2021年8月以降、何回も購入するリピーターです。
「初めて炊いた時に、ものすごく良い匂いで。食べてみるとさらに衝撃的なおいしさでした。茹で方を柴田さんに尋ねると、『アルデンテに茹でて』と言われたのもびっくりでした。ぬかもおいしくて、卵焼きに入れて食べます」と小崎さん。柴田さんの米作りは、無農薬無肥料の自然栽培なので、米だけでなくぬかも安心して食べることができるそう。
実は、サリークイーンの稲は、日本米の稲穂と比べて背丈が高くしなやかなため、お正月のしめ縄に向いています。柴田さんのところでは、しめ縄用に8月ごろ、穂が出る前に青刈りしておくそうです。
「サリークイーン」作りの新たな仲間も
サリークイーンの潜在的な価値に期待を寄せて、米作りに名乗りを上げた人もいます。佐々木敏宏さん、中川博司さん、行元大介さんの3人。それぞれに農法は異なりますが、実験的にそれぞれの場所で栽培をスタートしています。
その一人、倉敷市の佐々木さんは脱サラ後、農機具の整備士を経て、自然栽培の米作りをしています。
「自然栽培のお米を買い求める顧客層は増えています。それに加えて何か岡山南部を代表するようなブランド米が作れないかと考えていたときに、サリークイーンを知りました。インパクトのある香り米は話題性もあって、新しい顧客とつながるツールとしても面白いです」と話します。
柴田さんは「サリークイーンを作ってくれる仲間が増えたことがまず嬉しい。あきらめずに30年間作り続けてきてよかった。サリークイーンを作るために特殊な機械や技術は何もいらず、心掛けさえあれば誰でも作れます。ゆくゆくは、農家がサリークイーンを当たり前のように作る時がきたら嬉しいですね。若者の方から手をのばしてくれるような米を作れば、米の消費量が上がるのではと期待しています」と話しています。