母親として、3人の子どもを育てる傍ら、Utamamaの名でハンドメイド作家として、通販サイトやアプリで作品を販売しているワタナベカオリさん。繊細な手仕事はもちろん、ニッチなニーズに応えられる設計力とデザイン力が強みです。
ハンドメイドを始めたきっかけ
ミシンを使い始めたのは長女が生まれてしばらく経ってからというワタナベさん。感覚過敏でこだわりが強い長女は着るものを選ぶにも一苦労だったそう。買い物に行ける状態でもなく、それなら自分で作ろうと思ったのがきっかけでした。
「はじめに作ったのはズボンでした。ゴムでウエストを締め付けられるのを嫌ったので、リブにして圧着を緩和させ、屈んでも背中が見えないようにリブを長くするなど自分なりに工夫して作りました」
その後、子どもが遊ぶ人形の衣装も作るようになったといいます。
「人形のドレスって留める部分が後ろにあって、しかもマジックテープ。人が普段着るものと全然違うんです。またマジックテープがうまい具合に合わないことにも苛立っていましたね。確かに子どもの手だとなかなかちょうどいいところで収めるのは難しいなと思って、私が作るのはマジックテープではなく、かぶって着せられるものが大半です」
もともとは自分の子どものために作り始めましたが、ネットで販売するようになると、「こういった商品がほしかった」という声がちらほら届き始めます。「同じことで悩んでいる人もいるんだ」と知り、ものづくりの方向性が少しずつ固まっていきました。
アイデアの種は娘やお客さまから
「こういうものたちを作ろうと思ったのも娘のこだわりがあったから。アイデアの種は娘やお客さまからもらっています」
新生児用カバーオールの小さめサイズを作ろうと思ったのは、ワタナベさんが子どもに着せた市販のカバーオールがブカブカだったから。ちょうどいいサイズを着せてあげたいという思いから作り始め、ネットでも販売しました。それからしばらくして、出店している「ミンネ」にメッセージが届きました。
「今売られているプリミーサイズよりもっと小さいカバーオールはありますか?」
販売しているのは一番小さいプリミーサイズで40〜50センチ。さらに小さいものとなると30〜40センチ。未知の領域でしたが、客からの依頼ということもあり、挑戦してみることにしました。すると、客はとても喜んでくれたのだとか。
些細なことかもしれないけれど、“こうあってほしい”という願い。そんな客のこだわりを形にしてあげることに価値があるのかもしれない。“誰かのためになるものを作れた”という感覚は、ワタナベさんにとって大きなやりがいとなりました。
小さいカバーオールをプリミーサイズといいますが、ワタナベさんはさらに小さいという意味で、プリプリミーサイズと名付けて、小さめカバーオールの販売を続けています。
“こうだったらいいのにな”を形に
ワタナベさんの作品は、身につけたときの心地よさはもちろんのこと、身に着ける過程も戸惑わない、やさしい設計になっています。それは子ども用だけでなく、大人用についても同じです。
例えばエプロン。リボン結びをしなくても、ゴムにすることで、かぶるだけで脱着ができるようになります。また、上下裏表を自在に変えられ、ビーズで調整できるマスクなど、“こうだったらいいのにな”を形にしています。
また最近では、愛犬家のアドバイスを受けて、フレンチブルドックの柄のハンドウォーマーの販売をスタートさせました。手袋と違い、指先が自由なので便利。しかも、生地が丈夫なので、リードを持っても生地がダメージを受けにくく、洗濯しても型崩れしにくい素材です。
“こんなものあったらいいな、こうだったらもっといいのにな”
そんな思いに寄り添ったUtamamaの作品は、身に着けるとやさしさに包まれるよう。小さな声をすくいあげ、形にするワタナベさんが、これから生み出す作品が楽しみです。