11月6日、岡山県奈義町の高円山口地区で、伝統行事『亥の子』が行われた。旧暦の10月に行う行事で、この地域では、子どもたちが家々を回り、歌いながら縄を付けた石を地面に打ちつけ、家の繁栄を願う。今回は、初めて参加した小学1年生の有元謙真君に密着し、準備から当日の様子までを紹介する。
準備も自分たちで
11月3日、行事で使う竹と幣(半紙を切り折りしたもの)の準備をするため、近くの公民館へ子どもたちが集まった。亥の子は小学生が主役で、高円山口地区は今年度小学1年生が3人入ったことで、合計8人になった。
竹を切り分ける担当と、幣を作る担当との二手に分かれ、謙真君は竹の切り分けを志願した。
保護者や中学生が近くの竹林で竹を切ってくれたものを、更に細かく切り分けていく。のこぎりを使うのは初めてだったそうだが、「楽しい」と言いながら慎重に扱い、作業していた。
約50cm程に竹を切り分けると、今度は幣を挟むための切れ込みを入れていく。力加減が難しく、苦戦しながらもみんなで相談し合って進めた。あとは体調万全で当日に臨むのみ!
長きにわたる亥の子の一日
11月6日の当日。準備した竹などを積み込んで、家々を歩いて回っていく。移動に使うのは一輪車だ。
低学年には難しい為、高学年の女の子たちが頑張って押していた。小学5年生で最年長の小野柚葵さんは、「去年できなかった亥の子を今年はできて嬉しい」と話してくれた。
途中、バランスを崩して一輪車が倒れる場面もあったが、みんなで助け合って長い道のりを歩いていった。
地区や地域によって違うが、高円山口地区の石に繋がれている紐は4本。つき手を交互に変え、8人で石をついていく。直径約30cmほどの石は小さく見えるが、大人が持っても少し重たい。子ども4人がかりで1回打つのも大変だ。
石をつくときは、『亥の子、亥の子、亥の子のようさ♪』と始まる亥の子の歌を歌う。地区によって異なり、内容が少々怖い。『鬼生め、蛇生め』などの言葉が出てくるが、子どもたちは歌を覚える事が楽しく、内容はお構いなしのようだ。謙真君は繰り返し歌い、つられて他の子たちも一緒に歌っていた。
石をついたあとは、竹を地面にさして幣を挟んで出来上がり。一連の動作を繰り返し行う亥の子は半日かかる大仕事だ。
はじめのうちは「今度は竹やりたい」「今度は石やりたい」と積極的に言っていたが、10軒も回らないうちに疲れて「帰りたい」と言い出した謙真君。柚葵さんが優しく声をかけてみたり、気にかけたりしたことで元気を取り戻した。
午後3時半に出発した亥の子は、日が落ちて辺りが暗くなっても続いていく。親も付き添い、暗がりで足元が見えにくい所をライトで照らしたり、子どもたちが道から落ちないようにサポートしながら歩いた。この頃謙真君は弱音を吐いたりせず、着々と家々を回っていた。
午後7時、約40軒の家を回りきると行事は終了。最後は公民館に集まり、石をついた後に各家庭からもらったお菓子を食べながらくつろいだ。寒い中暗い道を歩き、疲れていたはずの子どもたちはすっかり元気を取り戻し、賑やかに過ごしていた。
お兄ちゃんやお姉ちゃんたちのサポートもあり、楽しんで最後まで回ることができた謙真君は、「来年もまたやりたい!」と話してくれた。みんなで一つのことをやり遂げる経験ができる伝統行事が、今後も続いていくことを願っている。