J1浦和の元日本代表MF・阿部勇樹選手。先日、今シーズン限りでの引退を発表しました。オリンピックやワールドカップなど、世界の舞台で戦ってきた阿部選手に、日本の選手が海外の選手と渡り合っていくために必要な要素や、今後の目標について尋ねました。
世界で通用する日本の組織的なサッカー
「僕が経験した試合の印象からすると、組織的なサッカーは日本の強みだと思うんです。規律を守ってチームとして機能したサッカーができていると感じます。オフェンスが相手のディフェンスラインに穴を作るように動いたり、試合時間によって戦術を変えたりなど、集団として機能するプレーには日本らしさがでていますね」
しかし、一対一の場面では個の力が求められることも多いと言います。
「技術的な面でいえば、日本選手のほうが上手いと思うこともあります。だからこそ、個人の強みを伸ばして一対一の勝負でも海外選手に負けないくらいの対応ができれば、さらに日本のサッカーが変わっていくのかなと思います。例えば、一人で他国の選手をしっかり抑えることができたら、サポートに来るはずだった仲間がオフェンスに参加できることになる」
衝撃だったカカのプレー
日本の組織力が世界に通用するとはいえ、世界の強豪国と比べると差を感じる部分もあります。阿部選手は特に「決断の速さが違う」と言います。
「海外だとシュートがディフェンダーにあたってもゴールに入ってしまうシーンって結構多く見られると思うんです。だけど、日本の試合では同じようなシーンはまだまだ少ない感じがする。そこに決断の速さの違いが表れていると思います」
例に挙げたのは2007年に行われたFIFAクラブワールドカップの、浦和レッズ対ACミランの試合。特にカカ選手のプレーが印象に残っているそうです。
「スピードと緩急のつけ方、前を見た時の速度は衝撃的でした。個の能力に長けていたし、自分の強みをいつどこで出すのかっていう選択も上手かったです。多分、決断に迷いがないと思うんです。元々スピードのある選手ですが、ボールを持った時はより速く感じました」
決断力を高めることは、個の能力を引き出す要素の一つといえるようです。
長い競技生活と怪我との付き合い
「もちろん、選択をミスすることもあると思います」と話す阿部選手。しかし、「その失敗があるのもサッカーの面白いところ。試合や練習の中でどんどんチャレンジして、ベストな選択を探っていくことが大切」と考え方はとてもポジティブです。
そのメンタルの強さを培ったのは、怪我との付き合いに関係があるようです。過去には怪我でワールドユースなどの国際大会に出られなかったこともあります。現在、40歳をむかえた阿部選手は、「痛くない時はないぐらい、だいたいどこかしら痛い」と話します。
「ボディケアに関しては、トレーナーに見てもらうこともありますけど、自分にしか分からない痛みや怪我もあるんです。だから、体のことをよく知ることが大事。他の選手のボディケアの仕方が合わないこともあるし、その逆もあります」
自分にあったやり方の模索は本人にしかできないこと。失敗を繰り返しながら正解を導き出していくことが大切になるといいます。それを楽しめるかどうかも、競技生活を長く続けていくうえでは重要なようです。
引退後は指導者を目指す
そんな阿部選手は、サッカーという競技に対して恩返しする方法を考えています。
「現役引退後は、クラブチームを率いて、監督をやっていきたいという目標があります。サッカー選手としてずっとやってきましたけど、指導者としては素人なので、自分にあったやり方を探しながら分からないことを学んでいきたいです。最初は上手くいかないこともあると思うんですけど、不安に駆られながらやるよりは楽しみながらやるほうが断然いい。だから、前向きにやっていこうかなと考えています」
引退を発表した阿部選手ですが、将来についても臆することなく挑戦しようという姿勢には勇気づけられます。阿部選手が作っていく日本サッカーの未来が楽しみでなりません。