香川県多度津町にある多度津高校の生物部。創部時の水槽の数はわずか3個でしたが、約5年の間に約90個にまで増えました。魚類、爬虫類、両生類など約100種類もの生き物が揃っています。
12人の部員は、自ら川で釣って来たり、卵からかえった生き物たちの世話をしています。生き物についての学びを深めながら、小学生の前で生き物に関する授業をするなど、様々な形で「生き物たちの生命」について伝えています。
偶数月の第2日曜には、一般の人も入場可能なイベント「ミニ水族館」を開催しています。10月10日の開催日を前に、部員と顧問の先生に取材しました。
水槽の中の「命」から、生態系を見つめる
生物部の部長・西山亮介さんは2年生。主に担当しているのはカエルです。歴代の先輩から引き継いだ珍しいカエルから、おたまじゃくしから育てたカエルまで、後輩と共に世話をしています。
「カエルと生活していたら、その魅力が分かります。よく見ると表情があるのに気づいたり、食べ方がそれぞれ違っていたりします」
西山さんのおすすめは、イエアメガエル。人慣れしやすい人気の種類だそう。
全長約20センチほどあるアフリカウシガエルも、最初は手のひらに乗るほど小さな姿。餌を与えたり水槽の汚れを掃除したりと日々の世話を通じて、生き物たちの成長を確かめています。
イベントの際は、西山さんは来場者に生き物の魅力について説明を行います。魚の見分け方や生態など、時には絶滅危惧種に指定されている生き物を目の前にして、説明することもあります。
「ミニ水族館では、お年寄りからお子さんまで、幅広い年齢層の方が来てくれます。お年寄りの方は、昔ドジョウが住んでいた環境はこうだったと教えてくれたりと、僕も興味深い話に出会えます」
西山さんが特に見てもらいたいと思っているのは、日本淡水魚のコーナーです。
「日本淡水魚は、熱帯魚のような派手さはありません。でも、この子たちは自分たちの身近にいるんです。水槽を見ていると、日本の川や池をのぞいているような気になります」
だからこそ、環境を大切にし、生き物たちの生態系を壊すようなことをしてはいけない、と警鐘を鳴らします。
「大きくなりすぎて飼えなくなったと安易に放流することは、その生態系を崩してしまうことになりかねません。生態系は簡単に壊れます。その子たちの生命について考えてもらえたらと思います」
日々、生物部で生き物の世話をし、命に向き合っている西山さんの将来の夢は、水族館の飼育員。自然界のメッセージを一人一人に伝える姿は、既にプロフェッショナルそのものでした。
生き物が大好きな部員たち
西山さんの後輩・黒崎凛音さんは1年生。魚について詳しく知りたくて春に入部しました。カメやナマズ、シクリッドなどを担当しています。黒崎さんは魚類の中でもサメが大好き。約50種類のサメが載った“マイサメファイル”はお気に入りで、いつもそばに持っているほど。
「幼い頃から気づけばサメがとっても好きになっていて、今は深海ザメに“沼”っちゃいました!今はユメザメが大好きです」
満面の笑みでサメについて熱く語る黒崎さん。生物部では、そんな“沼”について語り合える先輩や同期がいるのも魅力の1つです。先輩たちに淡水魚のタフさや病気の治し方など様々なことを教えてもらいながら、水を変えたり餌をあげたり、日々の世話に奮闘しています。
水槽が増えたきっかけは顧問の先生だった
「みんな、生き物が好きな子ばかりです」
顧問の岡田智宏さんは、1人1人の頑張りを温かく見守ります。自らも率先して生き物の面倒を見ます。1匹1匹の様子や異常を見つけたり、部員からは「分かりやすくて丁寧で、優しい先生」と好評です。
ミニ水族館が開催できるようになったのは、岡田さんの支えがあってこそ。きっかけは岡田さんが顧問になった際「自腹を切って水槽を持ってきて、文化祭で公開したら受けがよかった」ことでした。その後、東京の財団が行う研究助成制度を利用して補助金を確保するなど工夫を凝らし、水槽の数も徐々に増えていったそうです。
部員や顧問の情熱があって、多度津高校生物部はここまで大きく成長しました。たくさんの生き物たちの姿はもちろん、1人1人の命と向き合う姿、そして熱い思いからも、多くのことを学べるかもしれません。
多度津高校生物部の「ミニ水族館」は10月10日、入場制限をしながら実施される予定です。