18時で仕事は強制終了 “育児疎開”した管理職、家事も育児も効率化目指す

18時で仕事は強制終了 “育児疎開”した管理職、家事も育児も効率化目指す
LIFULL社員、グループ会社の社長でもある小池克典さん。アフターワークは家事と育児に没頭する。

「育児も家事も僕にとって“仕事”のうち。いかに効率よく仕上げて予算内に収めるか。その満足度が高ければ高いほど嬉しいです」

こう語る小池克典さんは、東証一部上場の不動産情報サイトが主力事業の「LIFULL」の社員。同社地方創生推進部「LivingAnywhere Commons」(以下、LAC)事業責任者であり、グループ会社「LIFULL ArchiTech」の社長でもある。

現在は会社から遠く離れた、茨城県南東部の行方(なめがた)市に居住。行方といえば、霞ヶ浦ふれあいランドや、霞ヶ浦で獲れたナマズや鯉などを使った行方バーガーが有名。牧歌的な田園風景が広がる典型的な北関東の街だ。

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小池さんは数か月前に行方市に引っ越したばかりだが、その目的は“育児疎開”。脂が乗った働き盛りの管理職であり、コロナ禍前は、同じ会社勤めの妻と都心での生活を謳歌していた。

夫婦の暮らしが変わるきっかけになったのは、“コロナ禍と長女の誕生”である。コロナ禍でテレワークがメインになったといっても仕事柄地方出張が多く、初めての出産と育児に直面した妻の負荷は高くなった。その結果、妻は精神的にも肉体的にも不安定になったという。

そのうち第2子を妊娠したので、妻の実家がある行方に引っ越しを決意。義父母の協力をあおぎながら、子育てをしようと思った……。ここまでなら子育て中の夫婦によくある話。

18時で仕事を強制終了し、毎日夕食を作る夫

劇的に変化したのが小池さんのワークスタイルだ。

小池さんは9時から18時まで食事もとらずに仕事に集中し、アフターワークは家事と育児に没頭する。毎日の食事づくりや後片付け、子どもの入浴や風呂掃除なども分担。昨今“イクメン”という名の夫が増えたが、彼はもはやイクメンの枠を超えている。

都心に住んでいる時は、夫婦共働きということもあり、食事は外食が多かった。作るとしても時間とお金をかけた男の料理がほとんどだったが、今はほとんど自炊。毎日夕食のレパートリーを考え、予算管理もする。

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配下に150人を超える大所帯の事業部のリーダーゆえ、仕事が18時で終わらない場合もある。しかし一旦強制終了し、部下や業務関係者からのメールにも返信しない(と部下たちにも宣言)。緊急の案件に対処したりプレゼン資料を提出したりする場合などは、早朝に起きて処理する。このようにタイムマネジメントを徹底している。

そう、冒頭の通り、家事・育児は彼にとって“仕事”であるから。

家事を効率化するためにはどうすればいいか?
ただの義務であり、単純な作業だと辛いだけだが、どうせやるのであれば楽しみたいと思った小池さん。今までやったことがないことに関して不安を覚えたり、やれない理由を挙げて躊躇したりするより、まずはトライして、さらにはエンジョイしたいと思うポジティブな性格が功を奏した。

例えば料理。時間配分を考え、作りながら、さらには調理道具類を片付けながら、翌日の仕込みをしながらと、ベテラン主婦も真っ青のマルチタスクをどんどんこなしていく。トマトソースパスタと赤カブのサラダを作ってもらったが、食後に「パスタを茹でるのをもっと早くすれば良かった。2分無駄な時間ができちゃった。まだまだですね」と軽く反省していたのが印象的だ。

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毎日眠るまでやることがいっぱいで、慣れないうちは大変だった。しかし自分に厳しい小池さんは、「こんな苦労、たいしたことはない」と自分を諌める。

油を大量に使う揚げ物、火加減が難しい卵料理なども苦手だったが、それも練習して得意になり、和洋中なんでも作れるように。「手際の良さは夫のほうが断然上」と妻は、嬉しそうに白旗を揚げる。

育児もほとんど担当するが、夜泣きの対応は妻任せになっているのはなぜ?と問うと「適材適所で、育児を分担していますから(笑)」と小池さんは照れ臭そうに答える。

家事・育児をしない夫はあり得ない

それにしてもなぜここまで家事・育児にこだわるのか? 彼が責任者となっているLACの事業に、紐解く鍵があった。

LACは場所・ライフライン・仕事などの制約に縛られずに、自分が好きな場所で、やりたいことをしながら暮らす生き方を実践するコミュニティである。具体的には、定額システムに加入してユーザーになると、全国の拠点(宿泊・コワーキングスペースが合体した施設)で生活できるというものだ。

「個人の幸せを追求するLAC事業の責任者でありながら、家事も育児も妻に押し付けて、仕事三昧の従来の夫像は格好悪い。夫が仕事を優先するあまり家庭が崩壊状態では本末転倒です。仕事はもちろん、家事も育児も全力で楽しみながら生きていくことを選びました。会社にそういうロールモデルがいないのならば、自分がなろうと思ったのです」と小池さんは語る。

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お金を出して、家事をアウトソーシングするという手段も考えられるが、それだと自分が介在しないので楽しめない。それならば、食洗機、ドラム式洗濯機、ロボット掃除機などのスグレモノ家電を購入して駆使し、創意工夫を凝らしながら自分で家事をやった方が面白いと思ったのだ。

「今は賃貸物件に住んでいますが、将来的に家を建てようと思っています。“サイゼリヤ的な設計”がいいなと考えていて」

え? あのイタリアンチェーンレストランのサイゼリヤ? どうして?

サイゼリヤ的な家を目指す理由

「サイゼリヤは、コストカットはもちろん、やらなくてもいい業務カットも徹底している。例えばスタッフの歩数を最小限にするためのテーブルの数とか配置とか導線を考えているし、下処理済みの材料で料理を作っているから包丁もない。そんなコンセプトの家を作ろうと思っています。家事も育児ももっとパフォーマンスを上げたいのです」と小池さんは目を輝かせる。

プライベートでの価値観の構築も、ビジネスパーソンそのものだ。

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そんな夫を妻はどう思っているのか?

「とても感謝しています。だって家族は大事だけれど、私には私の人生があります。子どもを産んでもキャリアを諦めたくないし、将来『あなたのせいで仕事を諦めた』と言いたくないですから」
その横で「そんなの当然」とばかりうなずく小池さん。

妻は新規事業の立ち上げの責任者でもあったのでキャリア志向だ。出産や子育てをしながら、責任ある仕事に就きたいという彼女のキャリアプランは、欲張りでもなんでもない。自分の人生やキャリアのオーナーは誰でもない、自分自身なのだから。

家事・育児は放棄しないというコミットメント

小池さんは、以前LIFULLの営業担当であり、入社2年目にしてマネジャーになった。他者の評価が重要だった彼はがむしゃらにトップセールスを目指し、「趣味は仕事」と言い切ってもいた。しかし現在「趣味は家族」に。延々と続くルーチンでありながら、評価されにくい家事・育児に全力投球することに満足している。

人は変わるものだ。自分の置かれた環境によって、一緒に大切な家族によって、人生のステージによって。暮らす場所も、やりたいことも自由に選び、仕事も育児もどちらも諦めない小池さん夫婦の暮らしは始まったばかり。

何年かすると愛娘は反抗期を迎え、難しい時期に突入するかもしれない。そうなっても間接的なサポートに回るなど、決して育児を放棄するまいと小池さんは宣言する。「コミットします」と。

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