自ら食材を収穫するパティシエ 焼き菓子づくりで伝える地域の魅力

自ら食材を収穫するパティシエ 焼き菓子づくりで伝える地域の魅力
ぶどう農家を訪問して話を聞く山脇節史さん(左)

井笠・備後地域の食材で焼き菓子づくり

いちご、柑橘、ぶどう、いちじく……。井笠・備後地域のさまざまな食材を使って焼き菓子やシロップをつくるpasión(パシオン)。店舗はなく、マルシェや委託販売などで出会うことができます。

パウンドケーキ
パウンドケーキ

約10種類のパウンドケーキとスコーン、色鮮やかなシロップや、その場で飲むことができるしろっぷサイダー。ラインナップは実にカラフルですが、人工甘味料、香料、保存料、着色料は使用していません。「食材が持つそのままの味と見た目を楽しんでもらおう」という気持ちが込められているのです。

商品はすべて、山脇節史(やまわき よしふみ)さんが、広島県福山市の工房で手づくりしています。

山脇さん
山脇さん

パティシエや特産品の栽培、バスの運転手など、全国でさまざまな仕事を経験したあと、地元福山へ戻ったという経歴を持つ山脇さん。

自分の経験を地域で活かせないかという気持ちから、まちづくりや地域おこしの活動に関わるようになりました。その土地ならではの美味しい食材や、作り手たちとの出会いが加速。パティシエの経験を活かし、「地域の魅力やストーリーをもっと伝えたい」と、地域食材で焼き菓子をつくるpasiónを2017年5月にスタートしました。

スコーン
スコーン

パッケージや店頭のポップには、それぞれの食材の物語が記されています。
笠岡干拓の完熟紅ほっぺには、「笠岡干拓では、温暖な気候と長い日照時間が、とても甘酸っぱく味の濃いいちごを育みます。酸味と甘みのハーモニー!」
笠岡諸島 高島の完熟金柑には、「石と歴史の島、高島で育った大粒の金柑。甘く香り高く大きな実が特長! お菓子にしても香り甘味はそのままでおいしい!」

パウンドケーキ
パウンドケーキ

食材の収穫にも足を運ぶ山脇さん。自ら収穫しないものに関しては、必ず作り手の話を聞きに生産の現場を訪れます。

ぶどうの里・青野のマスカットベリーA

2021年9月に訪ねたのは、「ぶどうの里」と呼ばれる岡山県井原市青野地区にある、こもれびファーム・山本さん。無農薬でぶどうを育てています。除草剤をまかず、草刈り機で刈った草を堆肥に。「子どもたちに無農薬のものを食べたり飲んだりしてほしい」、「ほぼ道楽じゃけんできる」と話すように、山本さんが目指す農業を実現したからこそ育った、貴重なマスカットベリーA。

ぶどう
ぶどう

ほとんど全てがワイン用に出荷されますが、一部を山脇さんが買い取ります。人づてに「無農薬でぶどうを作っている人がいるよ」と聞き、巡り会いました。

山脇さんと山本さん
山脇さんと山本さん

畑に行くまで「今年のぶどうは何もせずに育ててみたのよ、そしたら大きくなりすぎた!」、「若い木が育って、6年越しに初めて実がついたんよ」と、ぶどうの近況をわが子のように話す山本さん。畑に着くと「食べてみて」、「木によって味が違うよ、こっちはどう?」。山脇さんは「ほんまじゃー、ちょっとずつ違う」と確かめながら、収穫をしていきます。その様子はとても楽しそう。年に一度の貴重な収穫。「毎年、見に来てもらえてうれしいですよ」と山本さん。

ぶどう
ぶどう

「こんなぶどう、なかなか出会えない。育てている人の個性が、食材の美味しさにもつながってる」と山脇さんが話す通り、山本さんはぶどうにも人にも愛情があふれる、とっても元気な女性。山本さんが育てたマスカットベリーAは、赤紫色のシロップになりました。

シロップ
シロップ

しろっぷサイダーにしてもらうと、香り高く甘酸っぱい味わいがたまりません!

ぶどうのし…ぷサイダー
ぶどうのし…ぷサイダー

笠岡干拓の黒いちじく ビオレソリエス

別の日に訪ねたのは、岡山県南西部の笠岡干拓でいちじくをつくるBriGarden・山下さん。

山下さんと山脇さん
山下さんと山脇さん

笠岡のいちじくといえば、かさおかブランドにも認定されている「蓬莱柿(ほうらいし)」が有名ですが、山脇さんが仕入れるのは「ビオレソリエス」。甘みだけでなく、酸味もある黒いちじくです。「日本で作るのが難しい品種を、試行錯誤しながら上手に育てられていてすごい。pasiónの中でも毎年好評の人気シリーズ」と、こちらも山脇さんが惚れ込んだ食材です。

ビオレソリエス
ビオレソリエス

仕入れに訪れた際は、畑を見学。ビニールハウスには、ビオレソリエス、蓬莱柿のほか、さまざまないちじくが伸び伸びと育ち、ところどころに実をつけていました。

「今年の実のつき方はどうですか」と話を聞きながら歩きます。「食べてみる?」と山下さん。「わぁ、すごい甘さ!」、「やっぱりビオレソリエスは食べた後も香りが残りますね」、食べ比べると味の違いがはっきりとわかります。

山下さんと山脇さん
山下さんと山脇さん

仕込みを経て、パウンドケーキ、スコーン、シロップとなって店頭に並びました。スコーンをかじると、まるでシナモンが入っているかのような豊かな香りに驚かされます。

黒いちじく…とスコーン
黒いちじく…とスコーン

「年に一度、収穫期に生産者の方と話せる貴重な時間。足を運ぶことで、地域の魅力や食材ができる背景などを肌で感じることができます」と山脇さん。春はお茶、初夏にはマルベリーやすもも、秋はぶどうやいちじく、冬はいちご、キウイ、柑橘……。肌で感じたその土地の恵みとつくり手の思いをのせて、四季折々の美味しさを伝え続けています。

山脇さん
山脇さん

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