笠岡諸島・真鍋島は、岡山県笠岡市の住吉港から普通船に乗って、およそ1時間10分で到着する島です。人口は約170人(2021年7月31日時点)。のどかな漁村の風景が残る島を、猫がのんびりと歩きます。
2017年、真鍋島の本浦集落に「モトエカフェ」がオープンしました。細い路地に風で揺れる暖簾。
「もともとは『モトエ商店』という、食品や生活用品を販売するスーパーマーケットのようなお店だったそうなんです。私たちが移住してきたときには、もう営業していなかったんですが。屋号は引き継がせてもらいました」
そう話すのは、モトエカフェを営む近藤真一郎さん・民子さん夫妻です。
中に入ると、大きな窓に高い天井、カウンター席、テーブル席。広々としたスタイリッシュな空間が現れました。内装はほとんどすべて、真一郎さんがひとりで手掛けたと言います。資材を本土から島に持ってくるのにもひと苦労。「もう1回やって、と言われても無理かもしれん」と笑います。
近藤さん一家は、2007年に兵庫県神戸市から真鍋島に移住。当時、子どもたちは小学2年生と1歳。そして民子さんのお腹の中には赤ちゃんがいました。移住のきっかけは、真鍋島の移住体験ツアーに参加したことです。
「ゆくゆくは都会から離れ、自然が豊かな場所で暮らしたい」という気持ちから、「行ってみるだけ行ってみよう」と気軽に参加したツアー。移住はあくまで「ゆくゆく」の話だったはずが、島で暮らす方たちの優しさに触れ、すぐに真鍋島に移住することになるのでした。
「自然の豊かさだけでなく、少子高齢化が進む中、島での暮らしを維持する努力をされている方々に心を動かされました。暮らしの中に『支え合い』が根付いており、私たちもとてもお世話になっています」と話す民子さん。
島に子どもが増えるというのは、大きなハッピーニュースとなったことでしょう。地域コミュニティの中でたくましく育っていく子どもたちを見て、「真鍋島で暮らすことにしてよかったなぁ」と思ったと言います。
そんな近藤さん夫妻が「モトエカフェ」をオープンしたのは、移住から10年経った2017年。それまでは別の仕事をしていたのだそう。何がきっかけだったのでしょうか。
「私たちも島の方々の支えになれたら、という気持ちがずっとありました。また、10年の暮らしの中でも少子高齢化は進み、島は今後どうなるんだろうという気持ちも。島の方、外から来た方、いろんな方がふらっと入れる場所があるといいだろうな、いろんな出会いがあると私たちもさらに暮らしが楽しくなるだろうな、と思ったんです」
真鍋島には予約制の食事処はあっても、ふらっと立ち寄れるカフェはなかなかありませんでした。島で暮らすおじいちゃん・おばあちゃんにとって、ちょっとしたおしゃべりは公民館か自宅に集うのが定番。
個人でもグループでも、好きな時に訪れて気分を変えられるのがカフェの魅力でしょう。最初はなじみが薄かったカフェの文化ですが、今では「週に1回はモトエカフェに集合」と定期的に利用する人も。本浦港の近くで、観光客も気軽に立ち寄りやすく、こだわりのカレーや自家焙煎コーヒーといったメニューも魅力です。
カフェの2階はゲストハウス。キャンプ用品のタープが仕切りとなったユニークな空間で寝泊まりできます。キャンプ好きの真一郎さんによるアイデアです。コロナ禍になる前は、およそ半分が外国人の利用者でした。「『こんなに外国の方が島を訪れていたんだ!』と私たちも驚きました」と話します。
また、近藤さん夫妻は月曜日から金曜日、弁当を自宅まで届ける配食サービスも行なっています。午前中に約30食のお弁当を作り、それぞれの家を訪問。「暑いから無理せんようにね」、こんなふうに声をかけながら訪ねます。島を離れた先輩移住者から引き継いだ、独自の取り組みです。
支え合う暮らしに身を置くことで行きついた、カフェ・ゲストハウス経営や弁当配食。これからも島の方々と真鍋島で心豊かに暮らしていくために、近藤さん夫妻の工夫と挑戦は続いていくことでしょう。