香川県観音寺市にある「森のそら」は、古代米や自家農園で収穫した野菜の直売所。森岡秀誠(しゅうせい)さんは、家業の不動産業と森のそらを経営したり、さらに農園で作業に勤しんだりと、忙しい日々を送っています。
森岡さんが育てたバタフライピー。その花から抽出した「天然の青」が輝くドリンク。この一杯には森岡さんの好奇心と、亡き祖父から受け継いだ思いが詰まっています。
自然農法で育てた国産バタフライピーの花を商品化
夏の盛りに青い花を咲かせるマメ科の植物・バタフライピー(蝶豆)。この花は、天然の着色料として注目を浴びています。
森岡さんがバタフライピーに注目したのは約9年ほど前。着色料の代わりになるような植物を探していた時に、バタフライピーの「天然の青」に出会いました。日本で育てられる品種か調査を重ね、タイから種を輸入。森岡さん独自の自然農法で育成し、2016年にハーブティーとして商品化しました。
「バタフライピーの花は癖が少ないので料理にアレンジしやすく、さらに抗酸化作用のあるアントシアニンが大量に含まれてるのが特徴。レモンなどの酸に反応すると、青色から淡い紫色に変わる面白さもあります」
「天然の青」は、森岡さんの妹の由衣さんにより、様々な商品に姿を変えます。シーグラスのような青いこはく糖を始め、クッキーやアレンジドリンクなど「青」を効果的に使った商品は、まるでおとぎ話の宝物のような輝きを放っています。
祖父の背中から学んだ、自然との関わり方
幼い頃から祖父の畑作業を手伝っていたことで、農業への興味が生まれた森岡さん。口数は少なく柔和なタイプだった祖父の背中から、人や自然との関わり方や考え方を学びました。
家業の不動産業に加えて「農も“業”にしよう」と考えたのは、30歳の時。「未知のものに会ってみたい、いろんなものを育ててみたい」という好奇心と共に、当時病床にあった亡き祖父にいいものを食べてもらいたかったという思いがありました。
祖父から受け継いだ「すべての事象への感謝と、尊敬の念を忘れない」姿勢で、今の農園の向き合ってると語ります。
農園では、バタフライピーを始め常時100種類以上の野菜や果物、ハーブ類を育てています。空心菜、コリンキー、レモングラス、バタフライピー、しそ、白いナスビなど、少し変わった野菜が目立ちます。
「祖父と共に畑をしていた頃とは随分違う種類の農作物が育っています。僕が育ててみたいものが詰まっているのが、この農園。僕は『実証実験場』と呼んでいます」
ここで森岡さんが取り組むのが、自然農法。独自の方法を加え、柔軟な思考で農業に向き合っています。
「自然農法の基本は『持ち込まず、持ち出さず』。僕の解釈は『持ち込むのは、自分1人の力。持ち出すのは、季節の収穫物をおすそ分け程度』。僕1人の手くらいは、許してもらおうと思っています」
朝に花が咲き翌日にはしぼんでしまう一日花・バタフライピーの花も、森岡さんは1つずつ手で摘んで収穫。まさに季節のおすそ分けです。その他、落ち葉をたい肥にしたり、刈った草を道に撒いて微生物に分解してもらったりと、自然界の循環を意識した実験場で、農作物は豊かに緑をたたえています。
「自然農法には多種多様な考え方があり、一概にこれと断定できません。特に自然界を相手にする農業では、植物の立場になって考えることも必要です。僕は基礎を大切にしつつ、情報は柔軟にアップデートしていきたいです」
自然農法以外にも、様々な取り組みが実施されています。“農業に必要な電力”を自家発電するため、ソーラーパネルを3か所計約3000㎡の農園に設置。営農型太陽光発電システム・ソーラーシェアリングと自然農法を合体させ、分析・調査を重ねています。
森岡さんの農園に溢れるのは、農作物だけではありません。祖父から学んだ「自然との関わり方」を根底にした「挑戦」が詰まっていました。
繋がる「天然の青」の一杯へ
「すべての事象への感謝と、尊敬の念を忘れない」
森岡さんは祖父から受け継いだ“種”を育み、自然の恵みを確かめながら、きょうも自然農法と向き合います。森岡さんの原動力は、自然の摂理とサイクルに対する感動と好奇心。そして「自然にはかなわない」という植物へのリスペクトです。思いは収穫物に、そしてバタフライピーの「天然の青」の一杯へと繋がり、形を変えます。改めて、自然の恵みを食としていただいていると、感じずにはいられません。
小さな種から生まれる、神秘的な「巡り」の世界。そこで生まれた天然の青を、この夏味わってみてはいかがでしょう。