父と娘は最良の“ビジネスパートナー” 親子で営む立ち飲み屋がコロナ禍に迎えた1周年、その歩みとは 大阪・北区

父と娘は最良の“ビジネスパートナー” 親子で営む立ち飲み屋がコロナ禍に迎えた1周年、その歩みとは 大阪・北区
店頭で微笑む杉山さん親子

父と娘2人で営む大阪の立ち飲み屋が、2020年6月のオープンから1周年を迎えました。梅田から北へ少し足を延ばした先にたたずむその店、マウントスギに立つのは杉山勝一さん、満里さん親子。いわゆる立ち飲み屋を思わせないしゃれた雰囲気に、写真映えしつつも気の利いたメニューの数々を取り揃え、すでに幅広い年代の客を惹きつけています。

とはいえ、これまでの店の歩みが常にコロナ禍とともにあったのも事実。なかでも困難が多く思える飲食業界での新しい商売に、苦労はなかったのでしょうか。率直な疑問を投げかけてみると、こちらの心配をよそにあくまで前向きに仕事と向き合う親子の姿が浮き彫りになりました。

3度にわたる好機をつかみ、コロナ禍に夢をかなえる

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開店の直前まで、カレー屋やカフェでアルバイトをしていた満里さん。学生時代からさまざまな飲食店で働き、独立も視野に入れるようになっていました。ちょうどそのころ、数学教師だった勝一さんは長く勤めた中高一貫校を定年退職。かねてから飲み歩きが好きで、いずれは自分の店を持ちたいと考えていましたが、ようやく夢を実行に移す段階に入ったところでした。

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互いにタイミングの合った2人は親子で立ち飲み屋を開くことに決め、物件探しを始めます。候補地に挙がったのは、満里さんが生活の拠点にしてきた大阪市北区。梅田や天満を含む人気エリアとあって、当初は10件以上のキャンセル待ちもざらだったといいます。ところが、思わぬところから朗報が。

「なかなか見つからなかったんですけど、近所の知り合いがここに貼り紙してるって教えてくれて。で、電話したら決まった感じ。私が一番初めやったらしくて、その後、次々問い合わせがあったらしいです(満里さん)」

うれしい偶然もあって出店先に決まったのは、企業のオフィスと住宅とが混在する豊崎エリア。路面に向かって大きく開けた明るい店舗で、オープン準備が始まりました。ブルーグリーンが印象的な内装やロゴ、メニューなど、店の大枠を決めていったのは満里さん。飲食業界では先輩にあたる満里さんを信頼し、勝一さんはほとんど口出しをしなかったそうです。

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とはいえ、当時は1回目の緊急事態宣言下。滞りなく準備を終えたところで、実際に店を開けられるかは未知数でした。しかし、親子は自分たちの置かれた状況を決して悲観しませんでした。

「こんだけマイナスのときに契約するということは、プラスになるしかないと。やるんやったらやろうという勢いがあって。で、5月の下旬に緊急事態宣言が終わって、予定通り6月1日に開けられたんですよ(勝一さん)」

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ポジティブな考えが、ツキを呼び込んだのでしょうか。父と娘の立ち飲み屋は、3度目の好機を得てオープンの日を迎えることになりました。

“我慢の時期”もプラスに変えて、新たな出会いを生む場所を

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オープン以降は、旬の素材をふんだんに取り入れたドリンクメニューや女性1人でも入りやすい雰囲気が受け、近所の常連に加えてSNSで評判を聞きつけた客の姿も目立つようになったマウントスギ。親子それぞれの知り合いも顔を出し、世代を越えて会話に花を咲かせることも日常の風景になりました。

「私が中心でやったら、職場の人や同年代のお客さんしか来ないと思うんですよ。ところが、娘のデザイン関係の友達とか、アルバイトつながりの友達、いろんな人が来てくれる。お客さんの幅が広がって非常によかったですね」

「50代の人と20~30代の人が、こちらがちょっと紹介したら楽しく話す。やっぱり私の経験からいうとね、行きたいなと思うのはそういう店です」

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親子二人三脚でやるからこその喜びを、こんな言葉で表現してくれた勝一さん。満里さんも開店直後の父の姿を振り返りながら、軽妙に応じます。

「ほんまにバイトやったらクビくらいのレベルだったんですけど(笑)、やっぱり思ったことが言いやすいのはよかったですね。なかなか家族と会う機会もなかったし。お母さんやお兄ちゃんとも集まれる場所ができた」

2人が「いい人ばかり」と口を揃える客との縁はもちろん、家族のつながりにも思わぬ副産物をもたらすことになった店。その根幹を支えてきたのは、互いに遠慮のいらない水入らずの関係性、言い換えるならばビジネスパートナーとしての好相性だったのです。

加えて、オープン以来の前向きなスタンスもプラスに働いたよう。今年に入って立て続けに出された2回目、3回目の緊急事態宣言の期間中も、普段はなかなか会えない近隣の飲食店主との「作戦会議」に充てるなど、決して無駄にはしませんでした。

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1周年のその日は宣言の期間中とあって、店で迎えることはかないませんでしたが、遅れること20日ほどで営業を再開。周囲の仲間からの刺激も受けた親子は早くも、次のステップへと思索をめぐらせています。

「この店舗でのオペレーションにも慣れてきたので、これからは揚げ物とか焼き物とか、もっと手の込んだメニューも増やしていきたいですね(満里さん)」

「いまは積極的にお客さんにアプローチするときじゃなくて、静かに見守る時期。幸い足の早い食材を扱っているわけでもないし、遅い時間帯に開けるバーでもないので、まだまだ耐えられる状態なんでね。長いこと休んで、しばらく来なくなってるお客さんもいるけど、いまは我慢です(勝一さん)」

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必ずしも順風満帆とはいかない状況にあって、希望を失わないのは何より杉山さん親子の側が客との出会いを求めるから。コロナ禍という大きな課題を乗り越えた先には、また新たな好機が待っている――屈託のない2人の表情に、そんな予感を持たずにはいられませんでした。

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