住宅リフォームを手掛ける岡山県津山市のタカラ産業。社長の河本義登さんは自他ともに認める大の犬好きで、自身の経験をもとに犬を飼う人向けのリフォーム提案を2015年頃から始めました。
「家族ですから。1年でも1日でも長生きしてほしいという思いです。ただ、それでワンちゃんのことだけを考えて、人間がストレスたまったらだめなんですよね」
こう話す河本さんに、犬と人が共に快適に暮らすためのポイントについて、尋ねました。
犬が大好きな自分が感じたことを
「僕は非常にワンちゃんが好きで。ただワンちゃんと暮らしていると人間にとっては不愉快なこと、おしっこをしたら臭いがあるとか、ご飯をその辺に散らかすとか、いろんなことがあるので。人間も快適で、ワンちゃんにも長生きしてもらわないとだめなので、そのあたりが両立できるような住空間を、自分が一番に必要だと思ったので、お客さんにも勧めていきたいなというところがスタートです」
物心ついたときからそばには犬の存在があり、子どもの頃は犬小屋で一緒に寝ていたこともあるという河本さん。犬と長く一緒に暮らしてきたからこそ感じてきた思いを、仕事の中にも組み込むようになったのです。
社内には「愛犬家住宅コーディネーター」という民間資格を持った人が河本さんを含めて3人おり、1匹1匹の特性や家庭の状況を踏まえて最適な提案をするよう、心がけているといいます。
ポイントその1 体の負担を減らす
真っ先に思い浮かぶのは臭いや汚れ対策ですが、河本さんが最も大切だと話すのは「床」です。
「ワンちゃんはよく走りますから。止まったり、方向転換しようとしたときに滑ると、非常に股関節とかに負担がかかるんです。それで知らず知らずのうちに病気になったり、骨が変形していたりということがある」
滑り止めの効いた床に張り替える、既存の床に塗装を施すなどの対策がありますが、犬種(足の形状)によっても滑りやすさが異なるので、ショールームなどで事前に試すとよいそうです。ただ、足の悪い高齢者などにとっては、ある程度滑る床のほうが歩きやすいケースもあるので、そのバランスを見極める必要があります。
また、床に置かれたエサや水を飲んだり食べたりというよく見る光景も、実は犬にとっては負担。低い姿勢で食事をとっていると、うまく喉を通らず、つまらせてしまう可能性もあるといいます。犬の身長に合わせた高さで食事をとれるよう、台を設置するとよいそうです。
ポイントその2 ストレスをなくす
犬にストレスを与えない工夫も必要です。例えば「窓」。犬の行動スペースに、身長より高い窓しかないと外が見えないため、ストレスをためる原因になります。外の様子が見える窓があるかどうか、チェックしてみてください。
また、犬が苦手な人が家に来たときには、犬にとっても来客にとってもストレスが生じます。そんなときのために、デッドスペースを活用して犬を一時的に待避させられるようなスペースを作っておくのも1つの手段です。
このほかちょっとした設備や部品でも、新しい商品がどんどん出てくるので、家庭の困りごとに応じて、情報収集しておくと役に立つでしょう。例えば網戸は、よくあるものは犬がひっかくと破れてしまいますが、最近はステンレス製で破れない商品も増えてきています。
ポイントその3 人と犬の「共存共栄」
忘れてはならないのが、「犬だからこうする」という考えではだめだということ。犬の種類や大きさ、性格、先祖から受けついできた気質など、1匹たりとも同じ犬はいません。人間の世界でも固定観念がよくないと言われるのと同じように、ペットも「1匹の犬=家族」として扱い、その特徴に応じた住環境を整備していくことが大切です。
そして、犬のことを考えすぎるあまり、人が快適に暮らすことをおろそかにしてしまっては本末転倒になります。両方の目線に立って考え、重なる場合にはバランスをとる必要もあります。
「よく生きても(寿命は)15年とかなので、絶対に我々より先に死んでしまうので。その短い人生のなかを『河本家のわんことして来てよかった』と思ってくれるように、日々楽しく過ごしてほしいなと思いますね。我が子を思う気持ちと一緒です」
愛犬についてこう話す河本さんからは、心の底から愛情があふれ出ていました。「犬」という一般論でくくれないことも多いため、ここにすべてを書き記すことはできませんが、迷ったときには、河本さんたちのような愛情あふれるプロに、まずは相談してみることをおすすめします。