3本のカラフルな線がたくさん刻まれた、ファンタジックな形の石のアート作品。「アキホタタ」さんの作品には、不思議な魅力そして存在感があります。
毎年オーストラリアのボンダイとパース、2か所で開催される野外彫刻イベント「Sculpture by the sea(スカルプチャー・バイ・ザ・シー)」の常連アーティスト「アキホタタ」さん。2020年10月の実施がコロナの影響で見送りとなり、代わりに2021年5月20日から6月3日まで開催された日本人彫刻家による「Sculpture Rocks(スカルプチャー・ロックス)」へ出展、大好評となりました。
今回は、夫婦共同作家で香川県産の庵治石を使った石彫作品のアーティスト、アキホタタさんを紹介します。
「アキホタタ」の誕生
―とても変わったユニット名ですね。いきさつをぜひ教えてください。
アキホさん:タタの実家は石材店で、私はタタと結婚してから石彫作品をつくり始めました。途中まで別々の作品づくりでしたが、1990年ごろ、彫刻家の中岡慎太郎さんが私たちの工場を作業場にしていた時に「2人でユニットにしたら?」とアドバイスをいただき、1991年にユニットになりました。それぞれのアーティスト名自体は、以前に彫刻家の空充秋(そらみつあき)さんから太田「多多(タタ)」、太田「明甫(アキホ)」を命名していただきました。タタは、多いことはいいことだ!インパクトがあるから、重ねて多多ということで(笑)私は、「はじめ」の意味で使いました。昔していた茶道、華道の雅号から影響されて。
―お互いに作風の違いなどはありましたか?
アキホさん:初期のころのタタの作風は、たくさんの庵治石を使った石垣のような作品。私は、カラフルに塗った石どうしを積み重ねて作品づくりをしていました。次第に公募などで入賞しはじめて、1993年の第3回横浜彫刻展では、期間限定で横浜美術館の噴水の中に飾られました。そのつながりで、小学校の工作の教科書に載ったりしましたよ。その時の作風は私寄りだったかな。今は、本当の意味で共作ですね。それぞれができることをするという感じで。
人とのつながりを生む作品づくり
―横浜市だけでなく、地元、香川の「さぬきアートプロジェクト」の活動でも、子どもたちの美術教育に関わられていますよね。
アキホさん:はじめは県の芸術祭の公募をたまたま見て、応募したのがきっかけです。作品は、竹や紙などの素材でできた大きな芽に、地元の幼稚園の子どもたちに絵を描いてもらい、瀬戸内海にある豊島で展示する計画でしたが、最終的には高松市の中心街にある公園に展示されることになりました。
アキホさん:その作品がきっかけで「さぬきアートプロジェクト」がはじまり、1999年から3年間、アーティストと子どもたちの共作というテーマで作品を作りました。完全にボランティアのため最終的には資金不足になりましたが、その3年間に築いたつながりから、香川県内の幼稚園や小学校からワークショップや卒園制作などの依頼を受けるようになりました。
2004年から始まった「庵治石あかりロード」は、タタさんの地元、牟礼町の町おこしとして、源平合戦の史跡の間をライトアップし歩いてもらう企画です。史跡と史跡の間に距離があるため、県産品の庵治石を使った明かりを灯して幻想的なムードを作り、訪れた人に喜んでもらいたいというアイデアです。そのイベントにも参加しているアキホタタさん。
―人とのつながりという点で、地元の庵治石あかりロードも、とても印象的な企画ですよね。ぜひ参加作品について教えてください。
アキホさん:私たちは石のバスタブの作品で、毎年「足湯(指湯)」として会場に来てくれた方に「お接待」をしていました。つまりバスタブの中に入ってもらうんですよ。
アキホさん:コロナの影響で2020年も2021年も中止になっていますが、それまで15回ほどずっと続いていて大変好評でした。人肌というか、ぜひ触って、腰掛けて、作品を感じてほしいという思いで制作しました。
―オーストラリアでの展示企画「Sculpture Rocks(スカルプチャー・ロックス)」の作品も触ることができる作品だとか。特徴的なピンク色ですよね。形にも何か意味はありますか?
アキホさん:この作品の色は地元である香川の庵治町と牟礼町を舞台に、敵味方で紅白に分かれて戦っていた源平合戦がモチーフで、今回はそれを「平和」の意味を込めて紅白混ぜ合わせたピンク色にしました。他の作品でよく使う色にも意味があって、赤は太陽、黄色は月、青は地球(大地)の意味を込めています。私たちの作品の中で一種のトレードマークなんです。形は日本的な意味を込めて…「一富士二鷹三茄子」って、よく言うでしょ?そのなすびです、縁起がいいと思って。同じ地元で有名な「那須与一」の読みの音にもかけています。
石に秘められた“見えない力”
―また、2021年10月から開催される「Sculpture by the sea(スカルプチャー・バイ・ザ・シー)」でも、コロナ禍をテーマにした作品を制作予定ですよね。作品づくりに込められた思いをお聞きしたいです。
タタさん:私の作品づくりにおいて意識していることはあって。原始人が何万年も前の記録を残していますよね、石窟などに。また石という素材自体、地球が未来に残している記録でもあるし……それぞれ秘められたものがあり、それを表現したいと思っています。日本の「わびさび」のように、加工しすぎずに自然の良さ、本来持っている庵治石の良さを生かしつつ、さらに引き出したいという気持ちもあります。
タタさん:「Sculpture by the sea(スカルプチャー・バイ・ザ・シー)」に展示する作品もテーマは「封印」で、石どうしを重ね合わせた中に、ゴールドに色を付けたハートの型を彫りました。展示する時には蓋をするので見えませんが、そうすることで、見えないものの力や今まで自粛生活で閉じ込められていた、みんなの思いなどを表現しています。
―最後に、将来の計画や夢などありますか?
タタさん:畑と田んぼのある自分の土地に、野外美術館をつくりたいと思っています。やっぱり作品が大きいと、野外がいいなって。
アキホタタさんの作品は、香川県内にとどまらず県外の地で、そして海を越えてオーストラリアの地でもたくさんの人を楽しませています。
新しい作品は、香川県高松市亀水町の瀬戸内海歴史民俗資料館で7月10日~9月5日まで開催のイベント「瀬戸内をテーマにした作家作品展(仮)」で展示される予定です。