フォトグラファーの強みを生かして空間プロデューサーへ “天職”を生きる若き実業家の軌跡

フォトグラファーの強みを生かして空間プロデューサーへ “天職”を生きる若き実業家の軌跡
実業家として多忙な毎日を送る伊藤彰さん(本人提供)

香川県丸亀市にある「アケボノスタジオ」の3代目・伊藤彰さんは、若干29歳にして結婚式場、アンティークショップ、写真スタジオなど複数の事業を手掛けるオーナーであり、またヨーロッパアンティーク家具の買い付けや空間プロデューサーとして、日本はもとより世界中を飛び回っています。

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伊藤さんが手がける空間は、まさにフォトジェニック。香川県の結婚式場「リュバン」や「シェノン」の世界観は、これまでの結婚式場にないアンティークとドライフラワーの独創的な空間演出が話題になりました。

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そんな人気の空間を創り出す伊藤さんに、現在のビジネスのことや現在に至るまでの道のり、ターニングポイントについて伺いました。

フォトグラファーとしてやっていく覚悟

祖父が写真館を始め、父親もフォトグラファーという環境で育った伊藤さんでしたが、若い頃は自身がフォトグラファーになることは想像できなかったといいます。

「親も自分が好きなことをしたらいいというスタンスだったので、当時ハマっていた釣りで食べていけたらと考えていました。世界大会に出るなど釣りにどっぷりの生活をしていましたから(笑)。でもなかなか食べていくには難しいことを悟り、“なんとなく”写真の専門学校に進学しました」

なんとなく選んだ道。進学したものの写真を撮ることに対して心がついてこない状態だったといいます。それを一変させたのが、学校の課題で訪れたニューヨークでのポートレート撮影でした。

「“声をかけて目線をもらって撮影する”。撮影の根幹ともいえる過程に、初めて喜びと達成感を得られたんです」

かくして、最初のターニングポイントが訪れました。フォトグラファーとしてやっていく覚悟が生まれた瞬間でもありました。

空間プロデューサーとしての一歩を踏み出す

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卒業後は実家の「アケボノスタジオ」に戻ります。大阪の専門学校に通っていた伊藤さんは都会の写真館のクオリティやレベルなど、さまざまな情報を吸収していました。一度外に出たからこそ、自店の改善すべき点がわかり、そこを軌道修正していくことに。例えばスタジオ内に本物のアンティークを使った空間を創り出すなど、頭のなかで考えたことを具現化していったのです。

そして同じ頃、フォトグラファーとしてビジネスのあり方に疑問をもつようになりました。

「当時は、近隣の結婚式場からお声がけをいただいて、仕事に行くという完全受け身のスタイル。これからは自発的に仕事がとれるビジネススタイルに変えなければと考えるようになったんです」

自社スタジオ改修への熱量が増し、それは少しずつ形作られていきます。本物のアンティークを追求する伊藤さんの審美眼と、フォトグラファーとして“撮影する目線で空間を作る”というふたつの要素があいまって、陰影や奥行きを表現できるスタジオが完成しました。

そして、その空間で撮影した写真には大きな反響が寄せられます。「この空間、どうやって作ったの?」「うちにも欲しい」と全国の写真スタジオから問い合わせがくるように。これが2つめのターニングポイント。伊藤さんが空間プロデューサーとして活躍するきっかけとなった出来事です。

サブスクでアンティーク家具をもっと身近に

「うちのスタジオの空間もプロデュースしてほしい」と全国のスタジオから声がかかるようになり、伊藤さんの軸足はフォトグラファーからプロデューサーにシフトしていきます。

「当時はアンティーク家具を仕入れて空間を作っていましたが、高額なアンティークを導入してリニューアルできる店舗は限られます。そこでビジネスパートナーとの出会いもあり、新会社を立ち上げることになりました」

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新会社設立が3つめのターニングポイントです。買い付け、修理、加工、販売をトータルでできるように仕組みを整えました。さらにはアンティーク家具のサブスクリプションを業界に先駆けてスタート。総額の2.8%を月々のレンタル料にするというスタイルを考え付いたのです。これは改修する顧客にとってうれしいサービスとなりました。

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「予算が200〜300万円だとして、100万円のアンティークを買おうとすると、物のコストが圧迫し、改修が立ち行かなくなる。そこでネックとなるコスト部分に関してはレンタルで対応できればと考えました。別のものが欲しくなったら借りるものを変えればいいだけだから買うよりハードルが下がりますよね。それにレンタル費用は経費として使えるのも大きなメリットなんですよ」

買って所有するのではなく、ニーズに合わせて変えていく。しかも、レンタルだから初期投資を抑えることができる。これらは現場のニーズを肌で感じていたからこそ生まれたビジネスモデルといえるでしょう。

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コーディネートも学べる、提案型ショップ

香川県三豊市にあるアンティークショップ「IWARE」では、買い付けたアンティーク家具をコンセプト別にコーディネートして展示しています。ものを見るだけでなく、撮影イメージが湧きやすいように工夫しているのもポイントです。

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「お店に来られた方は実物を見られますが、遠方に住む方にもわかりやすいよう、インスタグラムを使って全国のフォロワーに向けて発信もしています。また、インスタライブも行い、スタジオづくりのヒントになるような空間づくりのハウツーも提供しています」

アンティークショップ「IWARE」は、アンティークを好む個人客だけでなく、全国のスタジオやショップを経営する人にも注目されています。

人も物も愛される、そんな空間を提供する

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フォトグラファーをルーツにもつ伊藤さんは、自分の強みをブラッシュアップさせることで、新しいビジネスを生み出してきました。そして、伊藤さんのターニングポイントとなる地点には、情熱を傾けられるコトや人との出会いも交錯しています。「空間プロデュースの仕事が天職だと思いますか?」という筆者の問いに、伊藤さんは「そうですね」という言葉とともにこう加えました。

「いくつもの時代を超えてきたアンティークと、瞬間を切り取る写真って、まったく違うもののようで、“残していくもの”という意味では同じカテゴリなんですよね。それにこの仕事って、ソフトもハードも大切。人も物も愛されてこそだと思うんです」

伊藤さんの作る背景は、計算しつくされた光のなかに、やわらかなニュアンスが漂います。本物のアンティークを使った背景に、撮影するフォトグラファーの思いやセンスも写し出せるようにスタジオを作り、付加価値を高めているのです。

伊藤さんの創り出す世界観は、枠にとらわれることなく、自由。そんな非日常の空間に魅了された人たちが、今も全国各地で伊藤さんのプロデュースを待っています。

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