過去に執着せず、お寺の役割を新しい形で取り戻す
高峰:
お寺はもともとコミュニティの役割を担っていたんです。3時になったら地域の方がお茶をしに来たり、子どもが集まって遊んだとか、劇をしたりとか。結婚式もお寺であげたり、寺子屋をひらいて勉強会もしていたようです。まだ役所がなかった時代には、個人台帳はお寺で管理していて。地域のコミュニティであり、役所みたいな機関。それがお寺だったんですよね。
甲田:
地域に携わりながら、そういうコミュニティの役割を取り戻していこうと?
高峰:
新しい形で取り戻す、という感じですね。昔のままではなくて。
甲田:
お寺といえば、伝統を重んじるイメージがあるんですけど、新しい風が吹く、そういう流れが仏教界全体にあるんでしょうか?
高峰:
そういうわけではないと思います。あくまで僕個人の考えですけど、仏教界はまだ昔のまま止まっているなって。昔が良かったから、そのままアップデートできていないのかなと思っています。
お寺の建物も、装飾も、創建当時は流行り、最先端のものを取り入れていたんです。その環境で勉強をするところだったんですけど、でもどんどんお葬式、法事のイメージがついて。お寺としても経営がうまくまわりはじめたら、もうそこで止まっているんじゃないかなって。
甲田:
止まっているという発想はありませんでした。
高峰:
僕自身、執着、こだわりがあまりないんですよね(笑)。たとえばお供えにしても、いまは豪華になっていますけど、そんな決まりなんてなくて。時代の流れのなかで肉付けされたものに、執着、しがらみを持っているだけのように思うんです。
甲田:
(執着しない、って仏教の教えの根幹のような)
高峰:
だから、アップデートされていない昔のままに執着するんじゃなくて、お寺からどんどん新しい情報を提供できたらなと思います。
固定観念を持たないことです。だから学生さんたちのアイデアに驚くことはありますけど、ノーと言わないようにしています。できるだろうな、としか思っていなくて(笑)。
甲田:
執着のなさがスゴいですね。
いまつくったものが、未来の文化財になればいい
甲田:
そのなかで、またひとつ木山寺さんの境内に新しい拠点が生まれました。この場所について教えてください。
高峰:
ここは、9時から16時まであけっぱなしにしているフリースペースです。集中して作業したい方、部外秘の打ち合わせをする方には、静かな空間も用意しています。
甲田:
お試し住宅も?
高峰:
物件の1階部分は、お試し住宅として利用できます。仕事は草刈りや農家さんのお手伝いがあるので、住みながらちょっと働いて、真庭でいろいろ繋がりをつくってもらえたらと思います。
甲田:
真庭での繋がりは、高峰さんも?
高峰:
そうですね。木山のあたりでしたら檀家さんも多くいらっしゃるので、空き家もだいたい把握しています。ですので、気に入っていただいたら、空き家をご紹介することもできると思います。
甲田:
そういう方がいると、とても心強いです!
高峰:
アーティストを招いて、ここに滞在しながら創作してもらえたらとも考えています。特産品の開発やパッケージに携わってもらうのもいいなって。あと、お寺で文化財になるものをつくりたいなと思っています。
木山寺にはけっこう襖絵が残っているんです。200年とか300年前のものとか。お寺ってものが残る場所でもあるので、いまつくったものが残って、将来ゆくゆくは文化財になればなと思っています(笑)。
甲田:
おもしろいです。いまの人たちが、お寺に絵や作品を奉納するわけですね。
高峰:
そうです。江戸時代にも、飲食はすべてこちら持ちで、泊りがけで絵を描いてもらって。その絵を奉納いただくという、アーティストインレジデンスの先駆けみたいなことをしていたんです。
甲田:
それがまた時代を越えて、ここでできるわけですね。ゆくゆく、高峰さんはこの木山ぜんたいをどのような場所にしていこうと?
高峰:
テーマパークですね(笑)。
甲田:
テーマパーク! 予想外の答えでした(笑)。
高峰:
滞在時間が増えたらいいなということなんですけど、お寺だけじゃなくて、木山神社さんや地域の方と手を取り合って、木山ぜんたいで遊べたらいいなと思っています。
木山神社で猫さんと戯れて、木山寺で遊べて、お昼は「日野上そば処 雲上亭」へ食べに行って、「ジェラート醍醐桜」のジェラートも食べて、御朱印帳を持っていたら、うえだ村の普門寺さんにも行ってみようかとか。そういういろんな場所をつなぐ架け橋になれたら、と思っています。
甲田:
その行程いいですね! ほんとに、まる1日はたっぷり遊べます。まずはぜひ、木山寺さんに足を運んでほしいです。きょうは、ありがとうございました。
高峰:
こちらこそ、ありがとうございました。
取材を終えて、改めて木山寺を参拝しました。
厳かな雰囲気を持ちながら、でも同時に親しみやすさを感じる。一見、相反するように思えるけれど、ここではうまく調和がとれていて、とても居心地がいい。それがきっと、木山の魅力なんだろうなと思いながら、手を合わせていました。
聞き手:甲田智之 写真:石原佑美