香川県観音寺市粟井町の、山のふもとにひっそりと佇むカフェ「おかし工房Botan」。地元情報誌をはじめ、たくさんのカフェを紹介する本に載っている人気の店ですが、今回は少し趣向を変えて、店主と猫を切り口に紹介します。
「猫の聖地」とも呼ばれるこのカフェには、現在12匹の猫たちが暮らしています。看板やパッケージデザインにも猫が描かれ、店の象徴ともいえます。
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自然豊かな環境と店主の愛情に守られ、野性味と人懐っこさを持ち合わせた猫。店主の平口香織さんに猫とお店の関係について聞いてきました。
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オープン当時からカフェに住み着いていた猫たち
おかし工房Botanには、2007年にオープンした当時から猫が3匹ほどいました。近隣に猫を飼っている家が多く、しかも去勢をしていない猫が大半だったため、いつの間にか飼い猫が妊娠。そうこうしているうちに増えていったのだとか。現在飼っている猫のほとんどは避妊・去勢の手術を済ませ、管理できる数を飼っています。
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駐車場に車を止め、歩いて店に行こうとすると、どこからともなくやってくる猫たち。とにかく人懐っこいのが印象的です。
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「昔から飼っていますが、ここ最近特に人懐っこさが増してきた気がします。お客さんにすり寄って挨拶するし、ヨシヨシしてもらえるのがうれしいんですかね」
カフェの待ち時間があると、外で猫と触れ合いながら過ごすお客さんも多いそう。猫を撮影する人も多く、インスタグラムなどのSNSでは、カフェメニューよりも猫のほうがたくさんアップされているとか。そんなエピソードにもほっこりさせられます。
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悲しい別れや、捨て猫に心痛むことも
たくさんの猫と長く暮らしていると、楽しいことばかりではありません。
「最近は避妊去勢をする人が増えているので、猫の出産を見る機会も少ないと思いますが、私はこれまでに何度も立ち会ってきました。猫は基本的に1人で出産しますが、1度赤ちゃんが羊膜に入ったまま放置されていて、『このままでは死んでしまう!』と羊膜の袋を破いて、取り出した赤ちゃんを母猫に渡したことがあります。ほかに、子離れの瞬間も目の当たりにしました。あるときを境に、母猫が子猫に牙をむいて関わりを拒絶し、独り立ちを促すんです。本能なんでしょうけど、いつまでも甘えたい子猫と、それを跳ね除ける母猫の姿が切なかったですね」
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寿命を全うしての死ならまだしも、不慮の事故で「もさ子」という愛猫を亡くしたこともあります。また、カフェに猫を置き去りにして行く人も後を絶ちません。無責任な放置に怒りがこみ上げることも多々あるといいます。それでも、カフェで飼ったり、客のなかから飼ってくれる人を探したりして、平口さんはちいさな命をつないできました。
猫の生き方を尊重して、責任をもって飼う
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猫の出産や育児、巣立ちという一連の流れを見ながら、これが命をつなぐ行為なんだと実感した平口さん。猫の本能、性質、習慣などを踏まえ、猫が猫らしく生きられる環境を大切にするのが平口さん流の飼い方です。
「うちの猫は散歩もしますし、森のなかで木登りもします。周囲に大きな道路がない、自然豊かな環境ということもあって、この飼い方ができるのかもしれませんが、私は猫本来の生き方を尊重したいと思っています。飼う人の都合に合わせるのではなく、猫の暮らしにこちら側が合わせるような。だって、考えてみれば、わが家は人間より猫のほうが多いんです。そう考えると、猫を飼ってるんじゃなくて、『私たちが飼われてるのかも?』なんて思ったりしますよね(笑)」
これからも作り手の思いが伝わるお菓子を届けたい
最後にカフェのこれからについて聞きました。
「こじんまりしたお店だから、誰がどんなふうに作っているかって大切だと思うんです。だから、これからも、お菓子づくりに真摯に向き合って、『私が、あなたのために作りました』という特別感のあるものを提供していきたいですね」
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SNSにアップロードされたたくさんの画像を見ると、訪れた客はBotanの雰囲気をまるごとエンターテイメントとして捉えているよう。おいしいスイーツはもちろん、緑豊かな自然も、そこでのんびり暮らす猫たちも、カフェを構成する大切な要素なのです。
山のふもとにぽつんとあるカフェ。店の歴史とともに、猫は自然とこの場所になじみ、客を呼び寄せる「招き猫」のような存在になっていました。
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