国民的アニメのワンシーンのような、リンゴの中で笑う3人の子どもたちの写真。これは、毎年家族写真を撮影している家庭の子どもたちの「リンゴに入りたい!」というリクエストを実現したものです。
「写真って基本受け身じゃないですか。よく分からないままスタジオに行ってポーズをとって。撮影を嫌がるお子さんもいる中で、自発的に考えて案を出してくれたことは、とても嬉しかった。写真というのは、本来そういうもので、どっかに寄せていく必要もない。自由だし、それぞれであっていいんです。ぼくはその一瞬の“記録”を残しているんです」
こう話すのは、写真を撮影した香川県在住のフォトグラファー、脇秀彦さんです。かけがえのない家族の一瞬を切り取る脇さんは、一体どんなフォトグラファーなのか。家族写真を“記録”だと話す、その哲学に迫ります。
撮りたいものは何でも撮る
脇さんは家族写真以外にも、ブライダル、広告などさまざまな分野の撮影を行います。また、子どもが親の写真を撮るワークショップに取り組んだこともあります。最近は、プロのカメラマンがオリジナル作品を掲載するサイト「ネガティブポップ」にも積極的に投稿をしています。
「よく何の撮影がメインなのか聞かれますが、撮りたいものは何でも撮ります。写真は技術だけじゃだめなんです。自分らしさをだすならまさにアイデア勝負なんですよ」
高校時代は美容師になりたかったという脇さん。フォトグラファーとしての原点は大学時代にあります。写真部に所属し、何気なく撮った花の写真。それを見た先輩から、当時の自分の心情を指摘されてどきっとした経験から、 “写真はその時の心情を投影するもの、表現できるもの”と感じ、写真の世界にのめり込みました。
「写真展をしたらその写真をほしいという人も現れて、『わかってくれるんや』と思いました」
主に『人』を撮ることが多い脇さんですが、チャレンジに垣根はありません。大学時代に転機となった花の写真も、今も撮り続けています。
家族写真を“記録”と話す理由
これまでも、さまざまなことに自由に挑戦してきた脇さんですが、最近、身近な人の死に直面し、“人間には時間が限られている”と改めて認識するようになりました。その時に改めて「家族写真」を撮る意味について考えたといいます。
「家族写真って撮っていないと取り戻せない、その時その時なんです。それを見て、『ああ、老けたな』とか。『これみんなで考えたよね?』って将来振り返って家族で話せるというのもいいですね。お客さんにとっては、その時々を思い出したり話したりする大切な記憶。ぼくはそれを記録する。だから家族写真は“記録”なんです」
コロナ禍の今だからマスクをつけたまま撮影をした家族もいたり、毎年マイブームの物を持参する家族もいたりと、家族によってニーズはさまざまです。撮影したときの思い出も大切な記憶。だからこそ、脇さんは本人たちの願いをできるだけ叶えようと努めています。
「困るようなものがあっても、それに応えられるようにやっています。ルールを決めてしまったら苦しいので、遊びに来てもらう感覚で来てもらいたいです」
挑戦を続けていく脇さんの自由なスタイルで、これからもそれぞれの家族が持つ記憶をカメラを通して“記録”していくことでしょう。