皆さんは岡山県新見市と聞いて、何を思い浮かべるでしょう。岡山を代表する和牛「千屋牛」、大きなぶどう「ニューピオーネ」、鍾乳洞などでしょうか。
私は新見と聞くと、クリスマスオーナメントのようにきらめく真っ赤なりんご、ふわふわとした雪景色、風に揺れる色とりどりの風鈴飾りなど、カラフルでどこかファンタジックな四季折々の風景が目に浮かびます。そして新見を訪れるたび、「ああ、インスタグラムで見ていたあのおしゃれな山の中に来たのだ」という気持ちになります。そんな風に思うのは、「Re:new(レニュー)」をチェックし始めてから。
新見で撮影されたかわいらしい写真が並ぶ「Re:new」のインスタグラムでは、情報を整理して保管できる「ハイライト」機能や、BGM付き動画「リール」まで駆使し、おしゃれな情報発信が行われています。「新見が好き!」という運営者の気持ちまで伝わってくる、楽しげな雰囲気をまとっています。
いったいどんな人が運営しているのか。運営者を訪ねました。
市民が自主的に行う情報発信
「Re:new」は新見市に在住・在勤する20代から40代の5人のメンバーから成る団体です。2017年に設立し、WEBサイトとSNS(フェイスブック・インスタグラム・ツイッター・ユーチューブ)で新見のイベント情報やおすすめスポットの紹介を行っています。設立から2年間は、行政と民間とが協働で地域の活性化を目指す「オール新見」の制度を活用し、新見市からの助成を受けながら情報発信を行っていました。現在はメンバーが自費でWEBサイト・SNSの運営を行っています。
WEBサイトやSNSの更新を行うのは、メンバー最年少の中石いつかさん。自治体や観光協会主体で行う情報発信と違い、「Re:new」は市民が自主的に、それも手弁当で行うもの。市民が必要とするイベント情報を網羅しながら、自由度高く、中石さんがいいと思った新見の風景を投稿しています。
撮影スポットは、ふだんの通勤時などに車窓からチェックし、決めているのだとか。市内の花の開花時期は把握済み。この日は神郷地区の日本一大きな親子孫水車の八重桜が見頃でした。
「最近、花はアップで撮るとかわいく撮れると気づいたんですよ」と楽しそうに八重桜にカメラを寄せます。風が吹き、花びらが舞うと急いで動画を撮影。一眼カメラやスマホで撮影したあとは、アプリで明るさや色を加工し、SNSに投稿します。
写真には撮影者の被写体への思いがのるとよくいわれますが、撮影からすでに楽しそうな中石さんの様子を見て、インスタグラム上の素敵な写真の理由がわかった気がしました。
都会大好き女子が、地元に目を向けたきっかけ
中石さんは小学1年生の頃、家族で広島県福山市から新見市に引っ越してきました。高校時代まで新見市で過ごし、福山市の短大に進学。多いときは月に1度、大阪に遊びに行くほど都会が大好きでした。短大卒業後は新見市で就職。当時は実家暮らしで貯金をしてから、東京か大阪に出て行こうと考えていたそうです。そんな中石さんが地元に目を向けたきっかけは、新見で働く中で聞いた、地元のイベントを主催し、続けていこうと頑張る人たちの思いでした。
「以前は『みんなこんな田舎、好きで住んでないやろ』と思っていました。でもイベントを主催する人たちと話すと、地元のいいものを守っていきたい、伝えていきたいという話を聞くことが多かったんです。地元が好きで住み続ける人も、あえて新見を選んで移住してくる人だっている。改めて見てみると『意外と新見、いいところたくさんある!』と気づいたんです」
長く住んでいながらも、新見のいいところを知らない、以前の自分のような人たちが多くいるのでは。そう考えた中石さんは「私ができることは、伝えることだ」と思い、仲間たちと「Re:new」として情報発信を始めました。
新見の情報は、新聞やケーブルテレビで入手している人が多いそう。
「WebページやSNSに情報がまとまっていれば、見たい時に情報をチェックできる」
SNSネイティブ世代にとって自然な発想でした。
メンバーからは「情報がカレンダーにまとまっていたら見やすい」と意見がありました。「スマホにみんなでシェアできる手帳がある感覚」と中石さんが話すように、Webページはカレンダーでイベントが時系列に確認できます。
2018年の西日本豪雨の際、新見市内では断水となった地域がありました。「Re:new」は給水車のルートやお風呂の開放情報など、必要とされる情報を発信しました。「もう経験したくないくらい、あの時は辛かった。でも必要な情報だから、こまめにチェックして発信しました」と当時を振り返ります。
辛い経験を乗り越えながら、等身大で新見の暮らしを楽しみ、発信する中石さん。「Re:new」の情報発信は、新見に住んでいる人だけでなく、昔、新見に住んでいた人も懐かしく見てくれているのだとか。
色鮮やかな新見の風景写真は、気軽に移動ができない世の中になった今、なおのこと誰かの心を癒しているに違いありません。