看板を頼りに細道を登っていくと突如現れる風車。まるで異国の地に来たような錯覚を覚えるが、ここは香川県小豆島。オランダ風車を模した建物は「cupid & cotton Dutch Café」だ。創業者であるオランダ人の故ミシェルさんが家族に手伝ってもらいながらセルフビルドした。
オランダの伝統菓子ストロープワッフル
扉を開くと、妻の美緒さんと息子のYuuskeさんがあたたかく迎え入れてくれた。店内にはオランダ雑貨が飾られ、まるで絵本の世界のようだ。カフェでは2代目店主Yuuskeさんが試作を重ねて完成させたストロープワッフルを中心に提供している。オランダではストロープワッフルは駄菓子のような存在で、どこのスーパーでも売っている。昔から庶民に親しまれてきたお菓子である。軽く温めて食べるとクッキー生地に挟まれたキャラメルシロップがトロッと溶けておいしい。
最近はネット通販も始め、東北や九州からも注文が来るようになってきたそうだ。店内ではセルフビルドの記録アルバムが自由に読める。アルバムをめくりながら、美緒さんとYuuskeさんが当時の話を聞かせてくれた。
世界各地を旅して辿り着いたのは小豆島だった。
ミシェルさんと美緒さんの出会いはニュージーランド。当時、ミシェルさんが働いていた山羊牧場に、美緒さんがファームステイに訪れたことをきっかけに交際が始まった。店名の由来はこの時に生まれたという。
「当時牧場にいた『キューピッド』と、『コトン』というヤギが、すごく私たちに懐いたんです。私がよく冗談でミシェルを『キューピッド』って呼んだり、ミシェルが私を『コトン』って呼んでいた時代があって、それにちなんで店の名前を付けました」と美緒さんは話す。
ミシェルさんは29歳の時に仕事を辞め、バックパックと箱ひとつ分の荷物になるまで所持品を売り払い、アパートを出て5年間の世界旅行に出発した。一方、美緒さんは新宿の不動産会社でインテリアコーディネーターとして働いていたが、次第に転機の必要性を感じ、長期の海外生活を決意。ワーキングホリデイを利用してニュージーランドを滞在した。
そんな中ふたりは出会い、2年間は一緒にニューカレドニアやオーストラリア、インドネシアを旅した。その後、美緒さんは日本に帰って東京に住み始めることに。しばらくしてミシェルさんも後を追い、東京での2人暮らしが始まった。美緒さんは語学学校に通い初めていたものの、半年後に結婚が決まったのと同時に妊娠も発覚。そろそろ働かなければとミシェルさんは仕事を探し始めた。
いろいろ探している中で英語のインストラクターの募集を見つけ、新潟へ引っ越すことに。ミシェルさんはこれまでにも滞在した国で、英語のインストラクターをして暮らしてきたが、一生続けていく気にはなれなかったという。いろいろ考えた末に、もっとどっぷり自然に浸かりたい、自身のキャンプ場を持ちたいと思うようになった。
そこで、2年後新潟から和歌山へさらに引っ越し。紀伊半島の先にある大島のキャンプ場でマネジメントの仕事に携わった。ところが2年後、経営難のためリストラを宣告されてしまう。いよいよ、自身のキャンプ場を持とうとまた日本各地の土地を探し始めた。
海が見えることを条件に、レンタカーを借りて静岡からずっと南下していき、四国の四万十まで見てまわったが、なかなか納得がいく場所が見つからなかった。そんな中、なんとなく訪れた小豆島にピンと来て、すぐに移住を決めたそうだ。1996年頃のことだった。
「じっくり土地を探したわけではないのですが、まず小豆島に住んじゃおうと決めました。引っ越してからは、私が働きに出て、ミシェルは主夫をしながら、島中のいろんな土地を巡り、キャンプ場に良さそうな場所を探しまわっていました。たまたまこの土地を見つけ、あぁ、いいじゃんって決めたんです」と美緒さん。
「小豆島に決めたのは人が良かった点もあります。いろいろ探す中で、小豆島はすごくオープンで、そこに惹かれたことをよく覚えています。外国人だからって特別に見られるわけでもなく、いい距離感だってミシェルが言ってましたね」