先日公表された「大人になったらなりたいもの」アンケート(※)の小学生男子部門で第2位、中学生男子部門で第3位にランクインした「YouTuber/動画投稿者」。そんな子どもたちがチャンネル登録しているかどうかは不明だが、香川県の小豆島にも人気上昇中のYouTuberがいる。
(※)第一生命株式会社 2021年3月17日発表
根底にあるのは小豆島、瀬戸内海への郷土愛
チャンネルタイトルは「小豆島の漁師YouTuber はまゆう」。チャンネル登録者数は約26万人。再生回数150万回を超える投稿もいくつもある。豪快に魚をさばき、満面の笑顔で食べまくっているはまゆう氏は、いかにして人気YouTuberになっていったのか。
1993年、香川県・小豆島生まれ小豆島育ちの27歳。「はまゆう」は苗字と名前を縮めたニックネームだ。YouTubeやSNSには本名を明かしていない。家業が漁業というのは子どもの頃からちょっと自慢だった。「え? おまえんち、漁師? スゲー」なんて言われると、何だか誇らしかったという。「幼稚園の頃から『漁師になりたい』と思っていて、それは一度もブレたことないです。実際、当たり前のように漁師になりました」
念願叶って漁師になったのは、理想と違った高校生活を3カ月で辞めた直後。それから約10年間、小豆島の漁師として海に出ている。兄がいることもあり24歳で家から独立した。「給料をもらうんじゃなくて、自分で稼ぐ。確定申告をするようになったら“独立”って自覚しましたね」
心が折れたスタート時からの展開
YouTubeを始めたのは2019年の春というから、キャリアは2年ほどになる。そのきっかけを聞いてみた。
「岡山にも漁師のYouTuberさんがいて、その動画を見て自分もやってみたいと思いました」
漁協によっては個人的に魚を売ることを禁止しているところもあるが、はまゆう氏が所属する漁協では許されたため、ネット販売のツールとしてYouTubeは使えると思った。「はまゆうが捕った魚、買えますよ」的な、付加価値をつけた販売をしたいとも考えていたそうだ。
「内容は当初から『漁師めし』を軸に、漁師の枠から出ないブランディングはしてたんですけどね。最初の1、2カ月は、100回再生さえ必死でした。あの頃の投稿はもう消しちゃいましたけど(笑)」手応えを感じ始めたのは4カ月を過ぎた頃からだという。
漁業のこと、魚のこと、調理のこと、そして気持ち良く完食すること。場面は船上だったり、キッチンだったり。臨場感あふれる凝った撮影、編集も見る側を飽きさせない。視聴者の興味や反応が分かり始めると、それに応えた動画編集にも時間をかけ、チャンネル登録者数はどんどん伸びていった。
当初は、自分の魚を売るためとか、不安定な漁業収入のリスクヘッジにもなるなど、軽い気持ちで始めたYouTube。ところがファンが増えるとコメントからダイレクトな反応が次々と活字になって並び始めた。
魚屋からは「いつもは売れないナマコが売れた」「きょうは○○が完売だった」と。動画を見ながら魚料理を作った人からは「やってみたらおいしかった」とか。「ありがとう」という言葉も多く、自分の投稿に影響力があることを感じるようになってきたという。
「感謝のコメントが多くなってくると、社会貢献の気持ちも強くなってきたのは確かですね」最近では母校の中学から講師の依頼がきたり、県の環境管理課が発行する冊子のインタビューに応じたり。YouTube以外の活動も増えてきた。
魚離れが叫ばれるなか「漁師としては、やっぱり魚を食べてもらいたい」というはまゆう氏。ただの料理動画でも爆食動画でもなく、「漁師」という立場からブレることのない発信だからこそ、支持されていることがわかってきた。
魚食文化がもっと身近になってほしいと発信し続ける「小豆島の漁師YouTuber はまゆう」の番組は、YouTuberにあこがれる子どもたちはもちろん、まわりの大人たちにこそ見てほしい。いろいろな魚を食べてみてほしい……と、いつのまにか瀬戸内の漁業や魚食文化がもっと身近になることを、いっしょに思わずにはいられなくなった。これこそが、人気YouTuberの魅力、周囲を巻き込む力なのだと納得した。