ポートランドで「“ヒーロー”になろう!」と肩を叩かれる
ポートランドで出会ったまちづくりNGOの設立者から、「Be a HERO!(“ヒーロー”になって!)」と肩を叩かれたのが決定的でした。
「“ヒーロー”というのは、彼がまちづくりをしている様子を見た子どもたちから言われた言葉だそう。この地域で一番クールなガイだと。彼のように、誰の目から見てもかっこいいと思える、社会を変えていく行動が、自分にもできるのではないかと思えたんですよ。I’ll try(やってみるよ)と言っちゃったしね」と笑います。
帰国したノブさんのあまりの変貌ぶりに、渓さんは正直とても驚いたそう。
「彼にパーマカルチャーの魅力を知って欲しくて、ツアーに参加してもらったけれど、まさかここまで変わるとは思ってなかった。今ではノブさんの方が率先して家やお風呂などを建てて私たちの暮らしを作っています」
デンマークやニュージーランドで見つけた新しい価値観
一方の渓さんは、「給料がよくて将来食いっぱぐれがない」と作業療法士の資格を取り、病院に就職するも、激務に疲弊し2年で退職。「人生は一度きりなのだから、やりたいことをやろう!」と憧れていた海外へと旅立ちます。行き先は、デンマーク。「普通の人が選ばなさそうなのと、母の勧めもあって」と、エコビレッジやデンマーク国内でも有名な、障がいのある人と健常者が共に学び合う全寮制の成人教育機関「フォルケホイスコーレ」に滞在するなど濃密な時間を過ごします。多様な生き方・考え方の人々との出会いが、渓さんのそれまでの価値観や常識をがらがらと崩し、「会社で働くことだけが人生ではない!」との思いを強くしました。
2018年にはニュージーランドで有機農業を営む農家の家に滞在、1日数時間の労働と引き換えに宿と食事を無料で提供してもらう生活を送りました。良いホストに恵まれ、彼らの暮らしぶりから、自分も自然の中で幸せな持続可能な暮らしを送りたいと思い描きました。
地球の生態系の一部になる
2019年1月、2人は東京からノブさんの故郷・岡山県津山市へ移住し、書籍やインターネットで独学して建てた四畳半の小屋を拠点に暮らし始めます。
2020年には息子のテラくんが誕生、親子3人で「地球の生態系の一部になって幸せに豊かに暮らす」べく、パーマカルチャーを実践しています。
お金も電気も最小限。電気は、太陽光発電を蓄電しているため、曇天が続くと冷蔵庫は使えなくなるそう。それでも、電気がなくなったからといって、遠くからコストをかけて運んできたエネルギーを毎日使おう、という気にはならないのだとか。「なくなったらしょうがない。晴れるまで待とう」と、「待つことと、物事には限りがある」ことを覚えたと言います。
お金は、便利なツールだけれど、お金に縛られず、必要な分を必要なだけ稼ぐ。闇雲に稼がない。そのほうが、「がむしゃらに毎日働くより、よっぽど豊かな暮らしができる」。沢山のお金を稼ぐことより、地域での人とのつながり、何よりノブさんと渓さんが互いに支え合うことで、暮らしが成り立っているといいます。
パーマカルチャーをみんなに伝えたい! 「ドキュメンタリー映画プロジェクト」を立ち上げ
現在、ノブさんの撮影スキルを生かし、自分たちが受けた影響を他の人にも伝えようと、パーマカルチャーで幸せに暮らす人々の姿をドキュメンタリー映画にするべく、クラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げています。
資金集めだけが目的ではない、と2人は語ります。まずは暮らしを体感してもらおうと、寄附のリターンに、木多さんの家に家族で宿泊体験できるコースも用意しています。
「パーマカルチャーという楽しくて豊かな文化があることをまずはより多くの人に知ってもらいたい。そしてひとりひとりが、自分が今いるその場所から始められる小さな行動を起こし、パーマカルチャーを実践していく仲間を増やしたいのです」
順調に準備が進めば、4月からまずは国内を家族で旅し、海外渡航が可能になれば、アメリカ西海岸のパーマカルチャースポットを巡る予定です。各地で現地ツアー動画を作成して支援者に配信し、映画には収まりきれない各地の魅力を伝えたい、と意気込んでいます。
3人の目からどんな世界が見えるのか、各地でパーマカルチャーな暮らしを送る人の「知恵」が、どんな未来に繋がるのか、映像からリアルに伝わってきそうで、とても楽しみです。