コロナ禍がイベント業・飲食業の人々に与えた影響は計り知れない。この苦境をどう乗り切るのか、それぞれの会社や店が試行錯誤を続けている。そんななか、3か月売上ほぼゼロのどん底から、コロナ関連融資を使って攻めの投資を行い、2020年の売上が前年比120パーセント増となった中小企業が、岡山県にある。ともすれば寿命を縮めかねない、売上減の中での大規模投資という決断の背景には、道しるべとなった、経営指針があった。
イベントと飲食で地域を盛り上げる
株式会社ファーストディレクション(瀬戸内市)は、照明演出を手掛ける会社として、2017年に法人化。デザインから施行まで一括で手掛けるスタイルで、岡山県内のライトアップやイルミネーションの施工を次々に受注。さらに、閉鎖された海水浴場に飲食店「ベースビーチ」をオープンし、事業を拡大させてきた。
イベント・飲食共に順調に売上を伸ばし、2019年の会社売上は約6000万円にまで成長。2020年は新入社員を2人採用し、イベント関連で新しい契約も次々に決まり、「今年は良い年になる」と思っていた矢先に直面したのが、コロナ禍だった。
どん底の中、経営指針に立ち返る
コロナ禍の影響で、受注していたライトアップやイベント設営等の仕事は軒並みキャンセルに。ベースビーチからも、客の姿が消えた。緊急事態宣言の影響もあり、4月から6月頃にかけての売上は、ほぼゼロに近かったという。知り合いからは会社の存続を危ぶまれる声が相次いだ。従業員の給料も支払っていかなければならず、残り数か月で持っているキャッシュも底をつきてしまう見通しだった。コロナ関連の融資を受けるも、「使ったら返さないといけない」というプレッシャーから、どのように使うか悩んだ時期もあった。
「(融資を)切り崩しながら生き永らえるというのと、そのお金を投資と考えて会社の基礎体力を上げるために使っていくという2択だなと思って。どっちかなと相当悩んだんですが、経営判断って、悩む時間が一番ロスなんですよね。そこで悩まないために、経営指針に沿ってこのお金をどう使うかと考えたときに、2択のうちの後者だという結論に至りました。」
社長の木本康大さんがこう語った経営指針とは、「場所だけでなく人の心もあかるくする」というもの。ライトアップを手掛ける会社として、コロナ禍で暗くなった人の心をあかるくしていくためには、自分たちが前に進んでいく姿勢を見せたかったと話す。
(飲食店部門責任者・戸松俊介さん)
「社長から“攻める”って聞いたときは、正直しびれました。演出を手掛ける会社なので、演出として、僕らのことも盛り上げようとしてくれてるのかなって」
リーダーが打ち出した攻めの姿勢は、従業員のモチベーションにも火をつけた。