“世の中にないもの”を“気軽に手に取れるもの”に アレルギー対応菓子で食の喜びを広げるベンチャー企業

“世の中にないもの”を“気軽に手に取れるもの”に アレルギー対応菓子で食の喜びを広げるベンチャー企業
パッケージは、商品のイメージや販売戦略に合わせてデザイン。いずれにも共通するのは「手に取りたくなる」というコンセプト

あの震災を機に、“ないもの”づくりが始まった

カフェでは、マクロビオティックの考えに裏打ちされたメニューを提供していた中條さん。営業を続けていくうちに、アレルギーを持ったお客さんが多いことに気づかされます。食事内容が制限され、みんなと同じものが食べられない人がいる現実に問題意識が芽生えた中条さんは、アレルギー物質を含まないお菓子の注文を受けるようになりました。

「わけっこできる よろこびを」という禾のコンセプトを形成するうえで大きな出来事になったのが、東日本大震災。自分にも何かできないかと、支援物資として卵と乳製品を使わないクッキーを被災地に送りました。すると、被災者からこんな反応が。

「『小麦も使ってないクッキーないですか』って言われたときに、なかったからつくって。他になかったから、きっと困ってる人いるよねと思って、じゃあこれを売ろうと思って」

この言葉を受けてカフェをたたみ、法人としてお菓子づくりに専念するようになったのが発災からおよそ半年後のこと。起業がしたかったから、社長になりたかったから会社を起こしたのではなく、世の中にないものをつくったところ、結果として起業という形に落ち着いた――ビジネスありきではなく、困っている人たちに応えるものづくりがしたいという純粋な感情が、必然の結果を生んだのです。

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お菓子づくりを事業化させてからは、女性ならではの苦労の連続だったそう。製造ラインの整備を取ってみても、女性だからという理由でまともに取り合ってくれる会社はごく限られていました。

「もういまはジェンダーで考えるよりは個人の問題やから、その人の資質がどうやって話でしょ。そこをジェンダーでくくって判断するのはやめてもらいたいな、これからの時代」
「人と時の運には恵まれていて、必要なときに必要な人が必ず周りにいて助けてもらえる。お菓子にしても(発売の)タイミングが5年ずれたら全然違っとったと思うんです」

女性、ベンチャー、製造業。他にはない取り組みの推進には、乗り越えるべき壁がたくさんありました。しかし、新規事業ではリスクを伴う設備投資に人脈を活用したほか、法人化にあたって出資してくれた先輩経営者にアドバイスをもらうなど、中條さんは縁を頼りに一つひとつの問題を解消していくのでした。

商品そのものの魅力を磨いた先に、また違った食の未来が描ける

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当初は食への関心が高い層をメインターゲットに据え、販路を開拓していた中條さん。県産の米粉を使い、工場ではアレルギー反応の原因となる異物を徹底的に排除するなど、ものづくりそれ自体にこだわる一方、「営業マンの代わり」と語るパッケージは極力無駄を排したデザインにしました。それも成分表示を確認する消費者に訴えかけたいという考えあってのことでした。

経営上の小さい失敗は繰り返しながらも、中條さんはそのたびにきちんとバージョンアップを重ね、各地のセレクトショップに商品が並んだり、お客さんの喜びが綴られた手紙が届いたりと、徐々に好感触を得ることに。今度は、より幅広い人に商品を知ってもらいたいと考えるようになりました。

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そこで2019年、生産体制の増強を目的に、高松市の中心部から郊外のさぬき市津田に本社を移転。商品のパッケージも、ひと目でアレルギー対応であることが訴求できる要素を加えました。

移転の翌年には、展示会での縁をきっかけに5年もの歳月をかけて進めてきた良品計画との商品開発が完結。「小麦・卵・乳不使用のお菓子」のシリーズ名で、禾の商品は全国の無印良品で発売されました。価格と流通の両面で、いっそう手に取りやすくなった禾のお菓子。「人と時の運」は、ここでも発揮されることになったのです。

経営に関しては「まだ攻めてる段階」と謙遜するも、こうして着実に禾を成長させてきた中條さん。周囲からは「『ベンチャー企業の女社長』で売り出せば」という声も寄せられるそうですが、「個人ではなく、お菓子を表に出したい」と首を横に振ります。というのも、アレルギー対応のお菓子をいま以上に気軽に食べられるものにしたいと考えるからです。

「カリスマがスポットライトを浴びて、その人の会社がつくってる商品みたいな売り方もあるけど、その人が消えると忘れられてしまう」
「こういうお菓子が売れていけば、大手も変わるんですよ。大手は世の中の人が求めるものを形にしてるから。投票とおんなじで何に1票を投ずるか。次の世代に何を残すかってことをやってるのと同じで、売れるものが残るんです」

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短期的な利益の追求に走るのではなく、腰を据えた経営を志向するわけは、アレルギーの子が自慢できるお菓子をつくりたいという思いが中條さんを突き動かしているから。

「いろんな人の喜びをつなげていける機会を提供できるのであれば、この事業自体は継続する意味があると思うんで」

「必然」から始まったベンチャー企業だからこそ、禾には食の未来を変える可能性が秘められているはずです。

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