平和について、フラットな目線で語り合いたい
「平和教育」というと、どんなことを思い出しますか?戦争体験を聞いたり、ビデオを見たり…「そういえば学んだな」くらいかもしれません。そんな平和教育を新しくしようと本気で挑んでいるのは、長崎に住む大学生、山西咲和(やまにし・さわ)さんです。
高校生の時に第21代平和大使を務めた山西さん。Twitterで開催予定だったオリンピックに向けたアクションを呼びかけると多くの人が賛同・拡散。オリンピックは延期となりましたが、そこからコミュニティに発展し、中高生と定期的にZoomで長崎の原爆について話すなど、若者たちが平和について考えるきっかけづくりに奔走してきました。
そんな山西さんは今、「若い世代がやること」と「対話」をキーワードにした新しい平和教育のカタチに挑戦しています。株式会社ボーダレス・ジャパンが主催する「社会問題解決に本気で挑む高校生・大学生のためのプログラム BORDERLESS YOUTH FELLOW」に応募し、合格。フェロー生として社会起業家のアドバイスを受けながら、新しい平和教育のありかたをビジネスモデル化しようとしているそう。
「原爆の話が大嫌いだった」少女がたどりついた、新しい平和教育とは
これまでずっと平和への道を邁進してきた…かと思いきや、意外にも「小学校の時、原爆の話が大嫌いだった」と話してくれました。
平和への向き合い方が変わったのは小4のとき。グループ学習で平和の活動をしている人を調べたら平和大使にいきつき、興味を持ちはじめたのだとか。そこで「自分はなぜこれまで避けていたのだろう」と振り返って考えると、ある期間だけの平和教育になっていて、「自分ごと」にしづらいことに気づきました。
そこから新しい平和教育のカタチの模索がはじまります。中高生が地域と世界のこれから、自分たちの将来について考え語り合う、「三四郎の学校」との出会いによって対話の大切さを知った山西さん。「若い世代が同じ目線で伝えること」に加え、「対話」がキーワードになりました。高校生になった彼女は、熊本の小学校で授業をすることに。
授業では、山西さんが戦争の話をしたあとに、「平和ってなんだろう」「平和じゃないってなんだろう」をテーマに参加者同士が対話します。そして、「今の社会とつながることってあるかな?」と問いかけ、現代の社会問題(貧困、差別、同調圧力、選挙権など)との共通点を深め、各自でどういうアクションが出来るかを考えてもらう。対等な目線で対話する、山西さんの理想の平和教育です。
社会課題にアタックする人を増やす平和教育のキモは、「ワクワク」感
平和教育で何を大事にしていますか?と尋ねると、「どういう自分になりたいか、どういうアクションができそうか」を想像してワクワクしてもらうこと、だそうです。もちろん、従来型の平和教育のように「昔起こった悲惨な戦争」を語り継いでいくことも大切です。でも、それだけでは一過性のものになり、かつての山西さんのように目をそむけてしまう人も多くいます。今の社会問題にもつながっていることに気づき、「なりたい自分」まで考えられると、前向きでワクワクできそうですね。
社会問題も、平和教育も、思考停止しないのが大切だと山西さんは言います。
「もし自分が解決策の一部でないなら、問題の一部なんです。社会問題を前にして2つの選択肢がある。ひとつは解決策を探る、もう一つは目をつむる。圧倒的に後者が楽だし、傷つかないですよね。でもそれじゃ解決にならない」―すべての問題をひとりで解決できないから、社会課題にアタックする人を増やす平和教育に取り組みたい。そう語ってくれました。
山西さんの取材を通じ、平和教育と現状の社会課題解決は「考え、アクションする人を増やす」という意味で根を同じくしていることに気づかされました。
平和の花を咲かす人でありたい
ボランティアでやるのではなく、ビジネスモデル化に取り組もうとしているわけを聞くと、「偽善者といわれることもあるけど平和教育を一つの仕事として当たり前になってほしい」そして、本気度として証明したいそうです。
最後に「山西さんを突き動かすエネルギーは何ですか?」と聞くと、「自分が勝手に背負っている使命感なんです」と静かに笑いながら答えてくれました。「咲和(さわ)」という名前は、「平和の花を咲かせてくれる人」という由来があり、その通りの人になりたいのだそうです。
授業するなかで、「私の言葉ひとつで誰かの未来を変えてしまうこともあるんだ」と責任を感じたという山西さん。すこしずついいインパクトを与えられたら、と凛とした姿が印象的でした。
みなさんも、これを機に、自分にとって平和とはなにかを考えてみませんか?