新型コロナ禍で、楽しみにしていたイベントが延期・中止になったり、規模が縮小されたりすると、大半の人はがっかりして落ち込むのが普通です。しかし、今を生きる子どもたちはその瞬間を全力で楽しもうと、大人が想像だにしなかったような活力を見せてくれます。
そんな子どもたちに元気をもらったエピソードを、岡山県岡山市の民間放課後児童クラブ「AMI学童保育センター(以下、AMI)」の中野健汰センター長に聞きました。
作戦シートから感じた「向上心」
AMIでは毎年8月に、岡山市や倉敷市から放課後児童クラブ約10チームを集めたドッジボール大会を主催していますが、2020年はコロナ禍のため中止に。しかし、ドッジボールが好きなメンバーが多かったことから、AMI内のチーム対抗に規模を縮小し、2月にお別れ会として実施することになりました。
大会に向けて練習をしていたある日の保育終わり、中野さんが高学年部屋の掃除をしていると、机の上に置かれた1枚の紙を見つけます。
そこには裏表に、相手チームに勝つための作戦と、チーム内での注意点が記されていました。大規模であろうが小規模であろうが、子どもたちにとっては1度しかない「絶対に負けられない戦い」。そこにかける熱い思いと向上心が、ひしひしと伝わってきたそうです。
「こちら側からすると縮小して、ランクが落ちたように思うんですけど、それでもそこに向かって本気でやっていくという。子どもたちの中ではランクは落ちていなくて、ひたむきに全力で取り組んでいるんだなっていうのは頼もしいというか、偉いなと思いましたね。」
また、中野さんが注目したのが、注意書きの中にあった「ポジティブに考える」の一言。単なる作戦リストではなく、気持ちの持ちようまで言語化されていたことに、驚いたそうです。
初の室内開催で発揮された「創造力」
1年の中でも最大のイベントが、各施設で夏休みに開催する「夏祭り」です。大人が開くお祭りそのままに、近くの公園に屋台やゲームコーナーなどを出店し、保護者や地域の人たちも参加します。この行事も、コロナ禍で開催が危ぶまれる事態に。
「どうせ無理よなあ」と全員が諦めムードでしたが、なんとか実施できないかと試行錯誤した結果、各施設の室内で、子どもたちだけで開催することになりました。
「いつも通りにはできないけど、できることをやっていこう」と作られた思い思いのブース。その中で、ひときわ人気のコーナーがありました。なんと、ゲームセンターでよく見かける「ワニ叩き」のゲームを、牛乳パックや段ボール、割り箸などを使って再現していたんです。
「(ワニ叩きは)シンプルにすごいなと。僕らじゃ考えつかないですよね。クオリティも本物に近いような感じで、当日はすごい列ができていて。その列をさばこうとしている姿もまたすごかったですね。」
例年であれば屋外のため、魚釣りやスーパーボールすくいなど、夏らしい定番の出し物にアイデアが傾くとのこと。しかし今回は状況が大きく変わったことで、逆に室内でしかできないことをしようという、逆境の中での創造力が発揮されていたんです。
「創造という面でいうと、例年より考える力がついたんじゃないですかね。例年だと、準備から流れがあるものを、ゼロから考えていくという意味においては。」
子どもたちの”前に進もうとする力”のすごさ
コロナ禍のなかで、子どもたちを連れて公園に遊びに行くことすら躊躇せざるを得ない時期もあった。地域のイベントはことごとく中止になり「自分たちだけが行事をやっていいのか」そんな葛藤もあった。そんな中でも行事が成功し、この1年学童保育を続けてこられたのは、子どもたちのおかげだと、中野さんは言います。
「大人たちって、僕自身も『コロナだから…』とデメリットばかり考えてしまっていたんですけど、子どもたちの姿を見ていると、妥協は許されないなというか。何かやってあげたいなという気持ちになって。どちらかというと大人の方が前を向いていなかったのかなと思いました。子どもたちが前を向いているからここまで来れたのかな」
子どもたちは大人以上に“前に進もうとする力”を持っているということを、改めて知る1年になったということです。