田園風景の広がる岡山県奈義町に佇む多世代交流広場ナギテラスの一角で、コロナ禍の逆境にも負けず、「創造豊かに心揺れる楽しい体験」を子どもたちへ伝えている人物がいる。その名は久保山幸輝さん。「子どもたちが集まる場所作りがしたい」という思いから月に2回ほど、工作や化学実験などのイベントを企画・実行している。
大阪出身で、小学校教師から、アフリカ南部・ザンビアでの青年海外協力隊の経験を経て、現在、奈義町で地域おこし協力隊として活動している久保山さんへ、活動の原点を尋ねた。
小学校教師から青年海外協力隊員としてザンビアへ
高校3年生の時、進路選択をする中で、学校行事が楽しすぎて、「これで終わるなら教師になる」との思いから教育の道へ。
その後、小学校教師になるという夢を叶えた久保山さん。3年が過ぎた頃、ふと、自分が体験していないことを子どもたちに伝えているという状況に疑問を持ち始めた。そんな時に、“青年海外協力隊 現職教員参加制度”の募集資料が目に留まった。
ザンビアを選んだのは、アフリカ地域で、英語圏だったこと。また、自分のやりたい活動内容だったから。
「自分がザンビアの力になる!!」という思いを胸に抱き、渡航。現地では小学生の体育と算数の指導にあたるが、言葉の壁や何より指導の在り方に関して、最後まで悩みが尽きず、苦難の日々が続いた。
生活面で苦労したのは、首都から派遣先まで7時間かかるというバス移動と、水の確保(乾期になるとトイレの水は1日1回しか流せなくなる)だったそう。
豊かな現代社会で、忘れかけていたものがここにはある
ザンビアの人々と共に生活する中で最も印象的だった事は、いじめがなく、皆が友達だという事。これは、ザンビアの国民性に起因する。ザンビアの人々は、植民地から独立以来72の民族がいるにも関わらず、争いが無い平和な国である事を誇りにしている。そして、何よりも人との繋がり、家族との絆を大事にしている。ザンビアの人々は『心が豊か』なのだと久保山さんは感じた。
子どもたちは、電子機器のおもちゃやインターネット環境がない中においても、木に登り、虫を捕まえ、落ちているものを集めて遊びを創造し、笑顔が溢れる。「モノが豊富に溢れていることが、必ずしも幸せであるとは言えない」ザンビアの子ども達がそれを証明してくれた。
久保山さんは、現地を離れた今でも連絡を取り合い、ザンビアの人々との絆が続いている。
ザンビアでの経験を活かして
帰国後、家族の時間を大切にしたいとの思いから、自然豊かな奈義町への移住を決意。
そして、ザンビアの子どもたちが教えてくれたように、コロナ禍の今、何も出来ないと思うのではなく、皆が目を輝かせる体験ができるよう、趣向を凝らす久保山さんの姿があった。
先日、子ども向けの科学実験教室が開かれ、参加させてもらった。静電気を使い、吊り下げたチョコレートやネギ、スルメを回し動かす実験が行われていた。面白い実験が始まると、そこには参加者同士で笑いながら繋がる姿があった。
今後の夢を尋ねると、「学校という垣根を超えた体験を通し、人と人との繋がりが持てる場を作りたい」。久保山さんは、そう答えてくれた。