食や農を通じて、未来に伝えていきたいことがある
そんなド・ロ神父の功績を今に伝えているのは、「一般社団法人ド・ロ様の家」。ガイド・食・農の3つの部門で地域の人とともに活動しています。
これほど地域にひらかれて活動しているのは、ド・ロ神父から受け継いだ心持ちがあります。「ド・ロ神父は地域の人たちがあまりにも貧しかったので、すこしでも貧しさから抜けだせるように、笑顔で生きていけるようにという思いでいろんなことをしてくださいました。ですので、自分たちも地域のためにこの施設を活用していきたい」とシスター赤窄。
農業部門の「うーでーら」をはじめ、自分たちが楽しみながらやっている、とうれしそうに話してくださいました。畑でのおしゃべりが楽しみで来てくれるメンバーたちは、その多くが一人暮らしの高齢者。「おいしかもんばもろうたけん(おいしいものをいただいたから)、月見をうちでしようや」と誰かの家でお月見したり、穂飯(ほめし。畑で煮炊きすること)をしたり。畑を中心に、豊かな喜びが広がっているようです。「地域のため」「楽しみながら」というド・ロ神父の二つの姿勢に通じるものを感じました。
それにしても、150年前にしてもらったことを今に伝えていくというのは易しいことではありません。活動を長く続ける秘訣は「楽しむこと」なんでしょうか、と聞くと、シスターは「一つはそうですけど、やはり使命感ですよね」とハッキリおっしゃいます。
「ド・ロ神父が人をどれだけ大事にして、愛したか。だからあなたも大事な存在なんですよ、ということを、神父の活動を通して来てくれた人に伝えるということです」
外海のみなさんが伝えたいのは、「ド・ロ神父がどれだけすごい人だったか」という過去ではなく、「あなたも大事な人」という現在形の愛でした。お昼には、食部門を担当する日宇スギノさんがつくるランチをいただくことに。うーでーらのメンバーが育てた野菜やド・ロさまそうめんを使った丁寧な食事に、今日はじめてここに来た自分もまた、大事にされていると感じることができました。
これからのことを尋ねると、まずは耕作されずに荒れている畑を整備し、茶畑をつくること。そして畑のそばにあるド・ロ神父が建てた作業場(重要文化的景観重要構成要素)の整備が整ったら、神父ゆかりの製茶体験ができるようにしたいそう。お茶の木をオーナー制にし、収穫の時期が来たら呼びかけて集まれるように構想中です。
作業場の整備は続きますが、茶の木はすくすくとこの地で育ち中。150年前にこの地域をつくった愛が、また新しい世代に引き継がれていきます。