コロナ禍でも儲かる漁業とは? “オリーブハマチ”からひも解く養殖産業の可能性

コロナ禍でも儲かる漁業とは? “オリーブハマチ”からひも解く養殖産業の可能性

安定したおいしさのためには、できることを惜しまない

さて、ここでオリーブハマチに話を移しましょう。いまでは全国の大型量販店にも並んでいる、服部さんのオリーブハマチ。ブランド誕生のきっかけになったのは、香川県のハマチ養殖80周年記念事業(2007)でした。

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実はこのとき、白羽の矢が立ったのが服部さん。県の水産課の職員から「特定のエサを使って、ハマチを養殖してもらいたいんやけど」との要請を受け、ひと晩考え抜いた末に思いついたのが、県木であるオリーブを用いるアイデアでした。

服部さんがオリーブに着目した理由は、それだけではありません。単なる生産に留まらず、販売という営みにも携わっていたがゆえに、家庭の財布を握るのは女性だと踏んで、美容や健康といったイメージの強いオリーブこそが、市場に受け入れられるという確信があったのです。

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養殖魚のエサには一般的に植物油が使われていることもあり、当初はオリーブオイルをエサに加えることを思いつくも、コスト面の理由から断念。県の職員がオリーブについて詳しく調査した末に、ポリフェノール含有量の多い葉を使うという結論に落ち着きました。

ところが、オリーブの葉そのものをハマチに与えるわけにはいきません。そこで服部さんは、地元・東かがわの飼料メーカーに粉末化を依頼。長年の付き合いもあって快諾され、ついにオリーブハマチが育つ条件が整ったのです。それと同時に、本来であればお金をかけて廃棄されていた葉が、貴重なエサに変わるという“副産物”もありました。

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10年ほど前には、生のイワシやアジのペーストが主体の「モイストペレット」と呼ばれるエサに代わり、固形の「EPペレット」を導入。それまでの半分ほどの量で5、6キロクラスのハマチが育つため、食べ残しによる海洋汚染を防ぐ結果にもつながったのです。また、ハマチの生育に適さない冬季には、海苔に代わって讃岐サーモンの養殖も開始しました。

EPペレットの効果は味わいにも表れました。モイストペレットは、さまざまな魚がひとつの板状に冷凍されたものを使用。当然、個体差があるため、そこに含まれる栄養素は毎回違ってきます。

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かたや、すでに加工済みの魚粉で作られたEPペレットの品質は一定。エサやりや稚魚の追加のタイミングが先読みしやすく、ハマチの肉質、ひいては経営計画までもが安定するというわけです。加えて、新型コロナウイルスの影響も最小限に留まりました。

量販店の試食販売のパートさんからの「服部さん、毎年一緒じゃわ」という声は、自身にとって何よりの喜びとのこと。うれしいひと言のためには、自らEPペレットを試食する手間さえ惜しまないというから驚かされます。

「海が工場の製造業」という言葉の重みを感じて

服部さんが育てたオリーブハマチは飲食業界でも評判を呼び、直接仕入れている店も。そのひとつ、高松市福田町の郷土料理店・おきるでは、服部水産の従業員により「津本式」と呼ばれる特殊な血抜きを施されたハマチを供しています。10日以上も熟成されているものの一切劣化はしておらず、臭みもなし。見た目の美しさも特筆もので、豊島産の天日塩、だいだいぽん酢との相性も抜群です。

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ほどよい歯ごたえの理由は、生け簀の大きさ。多くの場合、12メートル四方で深さが10メートルほどのものが使われますが、服部水産ではその倍ほどの規模の生け簀を使っているのです。1つの生け簀には約1.5万匹ものハマチが泳いでいますが、回遊性の高さゆえに運動量はじゅうぶん確保されており、その結果として良質な筋肉がついてくるというわけ。

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私たちのもとにおいしいオリーブハマチが届けられるまでには、大学での学びと引田という地で受け継がれてきた漁師の経験則が融合した、きめ細やかな管理手法があったのです。

「漁師、漁師いうけど、自分では漁師になったつもりがなくて。『海が工場の製造業』と思ってる」
「こだわってないっていうか、当たり前なんですね。おいしくて当たり前」

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毎年のように変わる海の環境にもきちんと対応し、数の勝負ではない「作り、育て、売る漁業」を貫く。ネットを通じた小売や海外輸出といった新しい動きを見せる服部さんの軸は、これから先も決して揺らぐことはないでしょう。

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