大小700あまりの島を有する瀬戸内海。有人島もあれば、無人島もあり、暮らしや文化もそれぞれ異なる島々が穏やかな内海に浮かんでいる。
日本各地の里山では、秋(9月下旬)から春(4月上旬)にかけてそんな瀬戸内海の景色を想起させられるような「雲海」を見ることができる。
ここは山?それとも海?
雲海は読んで字のごとく「雲」の「海」。
前日の昼から夜、そして未明にかけて寒暖差があり、風が穏やかな朝に発生しやすいと言われている。山間部で発生した霧や雲が盆地に溜まることで、標高の高い山頂などから見ることができる現象だ。
水平に広がる霧や雲の様相は海面さながら。雲から飛び出た山の頭は、海に浮かぶ島のようにも見える。この景色を何かに例えるとするならば「瀬戸内海と島々」のようではないだろうか。
寝坊をしても雲海を見られるチャンスがある!
岡山県美作市上山地区の山頂にある「大芦高原」は雲海が見られるスポットの一つ。
雲海を見ることができるのはやはり早朝が多いのだが….
上山地区では朝の9時を過ぎても見られる日が頻繁にあり、年に数回はお昼頃まで雲海が消えない日もある。万が一寝坊をしてしまっても、見られる可能性はゼロではない。そのため、希望を捨てずに山頂から周りを見渡せば、雲海を拝めるかもしれない。
地域の温泉施設名も「雲海」
大芦高原には「大芦高原温泉”雲海”」という美作市が運営している温泉施設がある。
大芦高原温泉雲海の支配人であり、山のふもとで雲海に包み込まれて育った万殿直樹さんに、自然現象と温泉施設それぞれの「雲海」についてお話を伺った。
ーなぜ温泉施設の名前が雲海に?
「今から20年以上前のことになりますが、旧英田町(現美作市)が温泉施設をオープンする際に施設名を公募して、住民による投票を行いました。そこで一番得票数が多かったのが“雲海”だったんです。地域の方にとってもこの地といえば雲海という認識が強かったのではないかと思います。今はもうなくなってしまいましたが、地元の酒屋さんオリジナルの日本酒「雲海」も、お土産コーナーに並んでいたことがあります。」
ー近隣住民なら頻繁に見ることのできる雲海(自然現象)。思い出などはありますか?
「正直なところ、わざわざ雲海を見るために上山に上がったことはほとんどありませんでした(笑)。ですが、ここ数年は山の上にある温泉の支配人を任されることとなったため、雲海を突き抜けて通勤することもあります。雲海が綺麗に見える日には、車を止めて写真を撮ることもあるくらいです。」
美しい景色がすぐそこにあっても、それが日常の中にあると立ち止まってゆっくり眺めることはなかなかできないもの。外部から価値を感じて訪れる人の存在や、ライフスタイルの変化によって、改めて身の回りにある魅力的なモノ・コトに気づくことがある。
大芦高原温泉雲海では、12月21日(冬至)に「ゆず湯」を用意しているとのこと。雲海が見られるかどうかは運次第になるが、早朝訪れ、里山の景色をじっくりと眺めてみてはいかがだろうか。雲海は出ていなくても、冬の朝の澄んだ空気の中で見る風景は格別なはずだ。
NPO法人英田上山棚田団 水柿大地