何て美味しそうな色! 鮮やかな明るいオレンジが、瀬戸内の海や空にまぶしく映えます。
年初の発売以来、大人気のこのみかんジュースは、香川県三豊市の浅野農園でつくられたもの。みかん農家の三代目である浅野隆俊(たかとし)さんに、露地栽培へのこだわりやジュースに込めた思いを聞きました。
温州みかんにこだわり、コクのある味わいを追求
みかんの産地といえば、四国では愛媛県がポピュラーですが、香川県三豊市の曽保(そお)地区も、130年の歴史を誇る知られざる名産地です。
「みかんの露地栽培地としては、全国でも5本の指に入るくらい恵まれた場所だと思います」
それくらい、みかん栽培において立地は大切だと語る浅野さん。瀬戸内の長い日照時間と、温暖小雨で適度な寒暖差のある気候が、旨味のギュッと詰まった果実を育むのだといいます。
農園を継いで6年目になる浅野さんですが、子どもの頃は休みなく働く祖父や父の姿を見て、大変な仕事だとネガティブな気持ちだったそう。故郷を離れ会社員として働いた後、結婚して子どもが生まれたことを機に帰省し、お父さんの背中を見ているうちに気持ちが変わってきたといいます。
「やっぱり自分が継がないと、と自然に思えてきて。父からは一度も継げと言われたことはないんです。それがかえって決心に繋がったんでしょうね」
本格的にみかん栽培に取り組み始めてからは、お父さんから栽培技術を教わるだけでなく、JAの講習会で学んだり、同年代の農家仲間と情報交換したりと、日々切磋琢磨しています。近年は温暖化の影響で、以前より栽培が難しくなりつつあるそうですが、「みかん本来の味が出せる露地栽培にこだわりたい」ときっぱり。
甘味と酸味のバランスがとれた、コクのある味わいのみかんが浅野さんの理想。雨が降ると実に水分が余計に入って酸味が抜けやすくなるため、畑の地面にマルチシートを敷いて、木が雨水を吸わないようにするなどの工夫も欠かしません。
最近ではブランド化されたみかんも増えてきましたが、浅野さんがこだわるのは昔ながらの温州みかん。
中でも11月に収穫する早生(わせ)みかんの「宮川(みやがわ)」と、12月上旬に収穫する中生(なかて)みかん「石地(いしじ)」は、「僕の中ではツートップの美味しさ。追求すればするほど味に反映されるので、頑張りがいがありますね」
曽保みかんの魅力を、ジュースで広く伝えたい
みかんジュースが誕生したのは、今年の1月。その背景には、曽保みかんをもっと広く知ってほしいという浅野さんの熱い思いがありました。
「小さい産地ですから、旬の時期に全国展開するだけの流通量がないんです。でもジュースにしたら、旬ではない季節でもアピールできるいい手段になるのではと思いました」
とはいえジュースづくりは手間がかかるので、曽保では浅野さんが初めての挑戦。様々なジュースを飲みまくっては美味しいと思った製品の製造元を調べ、最終的に愛媛県宇和島市の工場に加工を依頼することに。
三豊から4時間半かけてみかんを運ぶという手間を惜しまないのも、この工場が「インライン搾取」という特別な絞り方をしているから。一般的なジュースは、皮ごと絞るため多少苦味が残りますが、この製法は果実と果皮を瞬時に分離させて果汁のみ絞り出せるため、みかんそのもののピュアな味になるのだそう。興味津々の私に、浅野さんが一杯ごちそうしてくれました。
甘い!そして濃い!
まさにコクのあるみかんをそのままいただいているような、身体が喜ぶフレッシュな味わいです。使われているのは、甘味の強い石地みかん。とはいえ、ジュースにするには酸味が強いので、通常より1週間ほど長めに熟成させてから収穫し、さらに倉庫で寝かせて酸味をほどよく抜いてから加工しているのだとか。美味しさを徹底追求する姿勢に、改めて脱帽です。
「曽保みかんを守っていきたいという気持ちが、最近はますます強くなりました。産地を維持するツールとしても、ジュースには力を入れていきたいです」と語る浅野さん。みかん栽培の過程では、皮を美しく保つための重労働があり、高齢の農家さんは手が回らず廃業を考える人も多いといいます。
「見た目が悪くても、曽保みかんの美味しさには変わりありませんから、ゆくゆくは僕がそうしたみかんを買い取って、ジュースに加工できればと考えています」
様々な品種の、様々な味わいのジュースが並べば、さらに魅力的に曽保みかんをアピールしていけるはず。温かく力強い浅野さんの眼差しは、しっかりと未来を見据えています。