岡山県の奈義町現代美術館で始まった新事業「アーティスト・イン・レジデンス・ナギ」。
アーティストが町に一定期間滞在して作品制作を行うもので、第1回目として、兵庫県在住の彫刻家であるクボタケシさんが招かれています。
世界各地で制作を行い、大理石などを限界まで刻むことによって生み出す彫刻作品が特長のクボさん。石粉が舞う中、奈義町でもくもくと作業を進めています。
石の彫刻との出会い、町の印象、作品づくりでのこだわりなどを尋ねました。
彫刻は地球が身に着けるジュエリー
―石を使った彫刻との出会いは?
最初は、ジュエリーデザイナーになりたかったんです。でも、芸術大学入学前に通っていた予備校の先生に、ジュエリーデザイナー科がない、と言われ、彫刻学科を受けました。最初は「彫刻って何?」というところからスタートしています。
在学中に、野外彫刻の国際コンテストに入選したことで、作品を滞在制作し、設置する機会に恵まれました。その時に、「ジュエリーは人が身に着けるもので人の身の周りの空間づくり、彫刻は地球が身に着けるジュエリーで地球の空間づくりだな」と思いはじめました。ジュエリーも石ですし、扱う石の素材は違えど、「石が好き」ということに変わりはないです。
―作品づくりでこだわっていることは何ですか?
素材を生かすことを大切にしています。グラインダーやのみを使いながら石を扱うんですが、制作中、思いもよらない穴や変な模様に出会ったり、石が割れたりすることもあります。でも、その時その時の出会いや失敗を大切にしています。自然のものなので、割れたら、割れた箇所に魅了されます。
“無駄な時間”が作品を生み出す
―制作中はどんなことを考えていますか?
つらいなーと(笑)。作業の90%がつらいです。飛んでくる石が痛いし、肉体労働だし、作業工程は自分じゃなくてもいいんじゃないかと。でも、作業をしている”無駄な時間”が必要なんです。その時間が作品を生み出します。他の人が作品を作ってくれたらなと思うこともありますが、”無駄な時間”の中に自分にしかできない部分が見えてくるので、つらいけど作業を続けていきます(笑)。
イメージした形にこだわりすぎるのではなく、制作中に出会った穴や模様、割れなどの偶然の出会いを作品に取り入れ、雰囲気を大切にするようにしています。
リクエストを受け付けて制作すると、「リクエスト通りにしないと…」いう気持ちが出てくるので、何もない状態から生み出す方が自由でおおらかな作品ができますね。
空が近くて雲がつかめそうな奈義町
―奈義町との出会いは?
今回のレジデンスまでに、知人の展覧会などで6~7回ほど奈義町に来たことがあります。建築家の磯崎新さんが好きです。磯崎さんの奥さん宮脇愛子さんの彫刻も好きで、美術館に足を運んだことがあります。
7月からドイツでのシンポジウムに行く予定でしたがコロナで行くことができず、兵庫県の山奥で作品制作をしていました。ちょうどそこに、奈義町現代美術館からレジデンスの声をかけていただき、奈義町に来させていただきました。いい出会いがあれば信じて乗っかっていく感じです。
―奈義町に滞在しながら作品を制作してみてどんなことを感じますか?
とにかく景色がいい。美術館周辺の那岐山と美術館の組み合わせ、空が開けている感じも好きです。B&G海洋センター艇庫の2階から見える朝霧がすごくきれいなんです。奈義町の空が近くて雲がつかめそうな感じが好きです。
彫刻家の気分を味わって
―今後の展開は?
ナギテラスの前の電柱の支線の横に設置する作品を制作しています。電柱と支線のある空間がすでに作品になっていると思っているので、この2つを活かして、ここをさらに魅力的な空間にしたいです。黄色が好きなので、支線カバーの黄色とのコラボが楽しみです。ナギテラスで、バスを待っている間、作品を見ながら待ってもらえたらなと思っています。
滞在中は、奈義町現代美術館で、ワークショップを開催予定です。制作過程で出てきた「こっぱ」という欠片を磨いたり、組み合わせたり、色をつけたりしてオリジナルの作品をつくってもらいます。参加者には彫刻家になった気分で、“彫刻家”としての自分自身の作品を作ってもらえたらと思います。切ったり、削ったりしたい時は、僕を作品づくりのアシスタントとして使ってください。
現在制作中の作品は、ナギテラス前と美術館前に恒久設置予定です。空間を生かした地球のジュエリー作品をぜひご覧ください。