劇団「OiBokkeShi(おいぼっけし)」。
岡山県和気町で設立され、「老人介護の現場に演劇の知恵を、演劇の現場に老人介護の深みを」という理念をもって活動しています。老人介護や認知症ケアの現場に演劇的手法を取り入れ、「老い」「ぼけ」「死」を組み合わせて高齢者や介護者と共に作り上げる演劇を通じ、老いの豊かな世界を発信したいと設立されました。
そんなOiBokkeShi(おいぼっけし)の新作が岡山県奈義町で上演されます。
新型コロナ禍のリアルな日常を描く
2020年度初となる新作『ハッピーソング』。
奈義町をモデルにしていて、チラシに描かれている山は那岐山をモチーフにしています。劇団主宰者の菅原直樹さんや、出演者(申瑞季さん、花房宏亮さん)らの居住地ということ、また地域づくりにも取り組んでいる町だからこそ、奈義町での公演を決めたそうです。
現在、全世界で猛威を振るう新型コロナウイルスを題材にしたストーリーで、コロナ禍でのリアルな日常が描かれます。
看板俳優「おかじい」の魅力
11月14日、舞台稽古のために、奈義町に来ていたおかじいにお会いしました。
取材の冒頭、「取材を受けることを菅原から聞いていない、こういうことは事前に知らせておくべきでしょ」というおかじいの言葉に「はいはい、すみません」と答える菅原さん。
「取材の時はキッチリしたジャケットじゃないとだめよ」と言われ、車からジャケットを持ってきた菅原さんに「暑いからこのままでいい」とおかじい。
その後も飛び交う2人の独特の掛け合いに、終始笑いの絶えない穏やかな時間が流れていました。
若いころから俳優に憧れ、定年退職後もオーディションを受けて俳優を目指していたという『おかじい』こと岡田忠雄さん(94歳)は、OiBokkeShi設立の第一人者で、劇団きっての看板俳優です。
岡山市南区で認知症の妻を自身も高齢ながら介護する、いわゆる老老介護をしながら暮らしていたおかじいが、たまたま新聞の記事を見て興味を持ち、参加したワークショップで出会ったのが菅原さんです。
菅原さんの「ぼけ」を正さず、目の前の相手を尊重し、老いを受け止める演劇手法に共感し、今までになかった新しい脚本を描く、そんな魅力ある人柄にほれ込み入団を決めたそうです。
60年以上前に結婚した妻を介護しながら俳優を続けているおかじい。
「妻を少しでも家に居させてやりたい」と思えているのは、ぼけを受け入れる介護に出会ったおかげだと話していました。
長い夫婦生活を『いつわりの愛』とユーモアたっぷりに語る姿は、おかじいなりの照れ隠しのようにも思えました。
新メンバーも加わり、ますます楽しみな公演!
新しい舞台の印象を「むずかしい」と話す理由は、今までにない脚本だから。
「今回は自信がない」と語るおかじいでしたが、役柄は気に入っているそうです。
元々認知症の役やホームレスの役が好きで、お客さんの目を引く役をしたい、仲間の誰にも負けたくないと語る姿は、自分の演技に誇りを持ち演劇を楽しんでいるように見えました。
今年からOiBokkeShiには、新たに小学3年生の男の子が俳優として加わったそう。
彼を見ていると、かつて学校にもろくに行かず、『無声映画』にコッソリ通うほど映画が好きだった小学2年生の岡田少年を連想してしまうそうで、「彼が自分に似ていて恐ろしい」と話すおかじいでしたが、フレッシュな新メンバーが増えてどこか嬉しそう。
小さな仲間の存在は、おかじいの演技を更に盛り上げてくれそうです。
『ハッピーソング』は11月28日(土)と29日(日)に上演されます。
おかじい演じるポップコーンを食べる謎の老人は果たして認知症なのかそれとも・・・
奈義町での初舞台を踏むおかじいの演技に注目です!