ロープウェイから見渡すと一面に広がる紅葉の景色に、思わずため息が漏れる。香川県小豆島の中腹部にそびえる渓谷、寒霞渓の紅葉が見頃を迎えた。急な気温の寒冷差が起きると赤くなりやすいという紅葉。今年は近年でも特に綺麗に色づいた紅葉が広がっている。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で観光客が減少
一方で、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響が寒霞渓の来客数に大きな打撃を与えた。「2月上旬からインバウンドのキャンセルが増え、さらに3月頃からは国内の団体が軒並みキャンセルになりました。事態を受け止め、緊急事態宣言が出る前に、4月10日〜5月31日までロープウェイ、寒霞渓山頂駅周辺施設は早めに臨時休業しました。かなりの打撃ですよね」と寒霞渓ロープウェイ広報担当の三浦崇寛さんは言う。
休業中は、本来なら鮮やかな新緑を楽しめる時期だった。観光を楽しみにしていた人のために三浦さんほかスタッフで新緑の景色を撮影し、YouTube動画配信を試みた。
6月には営業を再開したものの、夏にかけて相変わらず来客数は芳しくなかったが、9月に入り一転。シルバーウィークにはようやく観光客が戻ってきた。10月以降もGo Toトラベルキャンペーンの影響で、引き続き観光客が訪れてはいるが、一年の中で一番来客数が多い秋も例年より減少しているそうだ。
日々変わる美しい渓谷の景色
三浦さんは小豆島生まれ。小豆島の高校を卒業した後、大阪の旅行業系の専門学校に進学。卒業後は小豆島に帰り、寒霞渓ロープウェイに入社した。入社してもう20年程になる。
「寒霞渓は季節や天候によって、1日1日渓谷の見え方が変わります。稀に雲海が出ることもあります。毎日その日しか見れない景色を楽しめることがいいですね」
約5分間の絶景空中ドライブ
寒霞渓の渓谷を見下ろしながら片道約5分間の空中運行を楽しめるロープウェイ。渓谷越しに一望できる瀬戸内海の景色も抜群だ。通常のロープウェイの定員は40名だが、新型コロナウイルス感染拡大防止の対策として、現在は30名に減らしている。
寒霞渓は南北4km、東西8kmの山域を占める。およそ1300万年前の火山活動によって噴火し、安山岩層や火山角礫岩層などの岩塊が、長い年月を経て、地殻変動や風化、侵食によって奇岩を形成した。
古くには日本書紀にも記述が残っている。応神天皇が岩と岩戸に鈎をかけて渓谷を登られたことにより初めは、鈎懸(かぎかけ)または神懸(かんかけ)と呼ばれた。明治には外国人に寒霞渓を買収されそうになったこともあったが、地元の有志が寒霞渓一体を買い取ったことで小豆島から寒霞渓を守った歴史がある。
1934年には日本で最初の国立公園として指定された。その後、1954年には映画『二十四の瞳』の公開をきっかけに、映画の舞台であった小豆島は空前の観光ブームに。時代の波を受け、1963年には寒霞渓にロープウェイが開通された。当時は寒霞渓の上を遊覧ヘリコプターが飛び、派手な時代だったようだ。
登山や自転車コースとしても人気
最近は登山や自転車のツーリングをする観光客も増えている。こううん駅からは表12景、裏8景の遊歩道があり、片道約1時間で山頂駅に着く。「表12景、裏8景」というのは、登山道の途中に現れる、さまざまな形をした奇岩に「松茸岩」「大亀岩」などあるものを見立てた名前をつけ、その数を表している。
さらに足を伸ばせば、四望頂展望台、四方指展望台、星ヶ城と見どころが多い。
四望頂展望台は山頂駅から歩いて10分程。神官のかぶる冠のような「烏帽子岩」が見られる。
四方指展望台は山頂駅から歩いていくには少し遠いが、車であれば10分程。パノラマで瀬戸内海を一望できる。
山頂駅からは瀬戸内海で最高峰、標高816.6mの星ヶ城山への登山道がある。片道30分程歩くと、星ヶ城跡へ辿り着く。針葉樹林の山道を抜けると、山頂に突如現れる城の姿はとても神秘的だ。近くには駐車場もあるので、車で行くこともできる。駐車場からは山道を歩いて約10分程。星ヶ城は南北朝時代に備前児島半島の飽浦(あくら)の豪族佐々木信胤が小豆島に拠って、南朝方に呼応した史実(1339年)から、佐々木が戦時の城として使ったものと考えられている。
季節問わず楽しめる寒霞渓
紅葉に併せて、見どころが多い寒霞渓。今年の紅葉は11月いっぱいまでは楽しめるのではないかと三浦さんは予想する。紅葉のシーズンが終わると、徐々に木々が葉を落とし、冬はより荒々しい奇岩の姿を現す。四季を通じて移り変わる渓谷の景色はそれぞれに見ものだ。
街中とは明らかにちがうひんやりとした空気や、木の匂いを感じながら雄大な自然の中で過ごすと、日々の鬱憤がリセットされるような気がする。新型コロナウイルス感染対策をしっかり取りながらも、自然に触れる時間を大切にしたい。