イタリアにアトリエを構え、世界を舞台に活躍してきた、彫刻家・画家の武藤順九さん。2019年10月から岡山県津山市に拠点を移し、残りの人生をこの地で過ごしたいと話しています。世界的芸術家がなぜ津山を選んだのか、また今後どのようなことに取り組みたいと考えているのか、インタビューしました。
岡山県津山市に拠点を移したきっかけは?
今まで50年近くを国外で過ごし、素敵だと感じた場所で仕事をしてきました。70歳になり、特に日本の自然や地域の持つ歴史に触れながら、日本でのんびり仕事をしたくなりました。
妻の実家が津山というのもありますが、古代の日本にとって中国地方、特に津山地域は出雲と京都・奈良を結ぶ重要地でした。語り継がれた歴史と日本の原風景が津山地域にはあります。自分の残りの人生を津山で過ごしたいと思い、拠点を移しました。
新型コロナウイルスの拡大で仕事に影響はありますか?
コロナという存在は生き物であり、どう向き合うかを問われたと思います。イタリアと津山を行き来する予定でしたが、津山から動かないという選択をしました。おかげで、これまでにないほど充実した作品作りの時間を過ごしています。
作品づくりの時に心掛けていることは?
「隣の芝生は青く見える」と言いますが、人は他人をうらやましく思ったり、時には嫉妬したりすることがあります。わたしは、常に心の中のフィルターを掃除して、真新しい自分でいることを心掛けています。
そうすることで、小さなことでも感動できるようになります。人は、大きなものを求めがちですが、身の回りには、たくさんの小さな宇宙を感じるものがあります。感じたことを形にして作品が生まれています。
今後はどのような展開を目指していますか?
外国では、アイデンティティ(自分が自分をどう思っているか、どう表現できるか)を問われます。このことを、将来を担う日本の子どもたちに伝えたい。子どもたちには、長いものに巻かれるのではなく、自分の思いや考えを周囲に伝え、表現できる日本人に育ってほしいです。
8月から岡山県北部の小学生を対象にした体験イベント「お絵かき寺子屋」を始めました。わたしが絵の描き方を教える場ではありません。子どもたち自身が、墨絵で自由なイメージを長さ6メートルの和紙に描き、物語を完成させます。絵巻物は、いつでも自分の思いや考えを振り返り、見つめ直すことができる宝物として残ります。
わたしが70年生きてきた中で経験してもらいたいことを、このイベントを通じて、皆さんに伝えていきたいです。
1950年宮城県生まれ。1973年に東京芸術大学を卒業後ヨーロッパに渡り、1975年、イタリアにアトリエを構えた。大理石の彫刻を中心に、抽象的なテーマの作品を手掛け、2000年に抽象彫刻としては歴史上初めてローマ法王の公邸内に永久設置された。2019年6月に東京都で大理石彫刻園を開園した後、10月から岡山県津山市に拠点を移す。