「ハンバーガーを作りたい!」 子どもが大人に企画書を提出
「なにをするかは、じぶんで決められます」―ユニークな学童保育が福岡県福津市にあります。木村航(きむら・わたる)さんが営む「放課後クラブ三粒の種」に通う子どもたちは、やりたいことを「企画書」にまとめ、スタッフに提出します。プールに行きたい、キャンプをしたいなど企画はさまざま。
ある日提出されたのは、「ハンバーガーパーティー」の企画書。きっかけは、クラブのおやつで出たフライドポテトでした。ジャンクフードが大好きな小学1年生の男の子は、涙を流して大喜びしたそうです。「じゃあ、今度はみんなでハンバーガーを作るか?」スタッフの言葉にまたうれし涙。「面白そう!」と飛びついたのは小4男子。You Tubeを見てハンバーガーの作り方を調べ、スーパーに行って原価計算をして企画書を書きあげました。出来上がった企画書のタイトルは「ママらく! パパらく! ハンバーガーパーティー」。お弁当を持ってくる土曜日にお父さんお母さんに楽してもらおう!と、材料費のスポンサーとなる保護者の思いも汲み取った企画になりました。
言葉にならない喜びが大爆発したパーティ当日
待ちに待った、パーティー当日。手づくりのパティ、ベーコン、チーズ、トマト、玉ねぎ、レタス・・・。子どもたちの口には入りきらないほど大きなハンバーガーが出来上がりました。せっせとお手伝いしていた1年生の男の子は、ハンバーガーを前に獣のような喜びを表現してくれました。
「いい企画だったね!」おわりの会でほめられた男子たちは、くすぐったそうな誇らしげな何とも言えない表情を浮かべていたそうです。
「やりたいことをどう実現するか」がなによりも大事なこと。
ところで、「企画書」の仕組みはどのように生まれたのでしょうか?木村さんに聞いてみました。従来の学童保育は子どもを守ろうとするあまり、「〜しちゃだめ」「◯時に〜をする」などのルールが多すぎると感じる保護者も多いそうです。塾を開いていた木村さんは、ご自身が会社を辞め埼玉から福津市に移住した経緯からも「やりたいことをどう実現するか」を考えることが大事だと考え、子どもの自由を重んじる学童保育をはじめました。
「やりたいこと」をどう実現するか―その一環で導入されたのが「企画書」システム。メンバーをつのって企画書を書き上げることもあれば、ハンバーガー企画のように上級生が下級生の「やりたいこと」を企画書にする場合もあるそう。
「めんどくさいけど、自由をつくるためにやらんといかんこと」
いざ企画書が通っても、ハンバーガーパーティーまでの道のりは前途多難。「作るのはめんどくさい」という子どもが出てきた際は「作る人は400円、食べるだけの人は500円にしよう」など話し合いをしながら進めました。
「自由にやりたいことをする」ためには、話し合いをしたり、企画書を書いたり、ルールを決めたり…と、面倒なことが多くあります。ですが、一人の小1の子どもがある日「話し合いに出たくない」と言い出した時、別の小1の子どもが「でも、やらんといかんことやけん。それが放課後クラブの《自由》やけん」と言いったそうです。
「自由とは、面倒くさいことに向き合うこと」。木村さんも言います。でも、ハンバーガーパーティで大喜びする子どもたちを見ていると、「やりたい!」ことに向かうパワーはとてつもなくエネルギッシュで、達成感や充実感が伝わってきます。木村さんは、彼らの姿を見て「これはアートだ」と感じたとのこと。
自由とはどういうことなのか、そこに生じる責任とどう向き合うのか……。子どもたちは、「やりたい!」を実現する過程でさまざまなことを学んでいるようです。