わたしたちが、「命をいただく」までの農家さんの思いとは…。
幼い頃から一途に、牛飼いになることだけを考えてきたという岡山県奈義町の花房尚徳さん(34)に話を聞いた。
「なぎビーフ」って
花房さんが育てるのは、奈義町の指定農場で生産された肉牛で、「和牛のオリンピック」とも言われている全国和牛能力共進会で2012年度に2位を受賞した「なぎビーフ」。出荷前の3か月間の仕上げ期に、奈義町産の黒大豆「作州黒」のきな粉を与えることで、旨みを高めているところが特徴である。
幼い頃からの夢
花房さんは高校を卒業後、県外の大学で農業生産について学び、卒業後すぐに地元奈義町に戻り就農した。
「幼い頃から間近で見ていたので、牧場で牛を育てることに迷いはありませんでした」
祖父の代から続く「花房牧場」の三代目と、町内の肥育農家で共同経営する「伍協牧場」の理事を務めている。
「花房牧場」では現在、和牛(去勢牛)約200頭を肥育。過去に2回農林水産大臣賞を受賞したほか、全国和牛能力共進会で4大会連続優等賞に選ばれている。
365日、愛情を注いで育てる
毎朝7時、365日餌を与える。生き物を扱っているため休みはない。「毎日世話をしていると、牛の顔色が分かるようになるんです。」しっかり餌を食べていると安心し、調子が悪そうにしている牛がいると、原因を考え、一日中気がかりになるという。
「消費者においしいと言われたとき、格付けでいい評価がおりたときや品評会で受賞できたときが嬉しいですね。育ててきた牛が評価されることに対し、楽しみな気持ちが強いです。」と花房さん。愛情を注いで育てた牛は、27~28か月の約800kgで出荷される。
牛の人生を全うさせる
「人間のエゴかもしれないですが、お肉になるために生まれてきた牛たち。おいしいと言われるために責任をもって育てきりたいです。人生を全うさせてあげるのが僕たちの役目。牛たちにストレスを与えないように育てていますが、牛舎で死なせてしまった時は、やはりショックが大きく、気候の変わり目には最も注意を払いながら肥育しています。」
地元の消費者も増やしたい
主に大阪や姫路に出荷されてきたというなぎビーフは、今まで岡山県内や奈義町内ではあまり流通していなかった。しかし、町内の他の農家と協力をしながら、徐々に知名度を上げていった。
12月下旬まで奈義町で実施されている「なぎビーフもぐもぐキャンペーン」では、なぎビーフの仕入れに町が助成を行い、町内の指定飲食店・販売店でキャンペーン期間中、なぎビーフを扱ったメニューを特別価格で味わうことができる。
こうしたキャンペーンをきっかけになぎビーフを口にする地元の消費者が少しずつ増え、「おいしい」と言われることがとても嬉しいと言う。
「食」で町を盛り上げたい
「これからも花房牧場と伍協牧場で連携をし、みんなで互いに切磋琢磨しながら上を目指したいです。食を通じて、奈義町を盛り上げていきたいです。」と花房さんは笑顔で語った。
私たちの手元に肉として届くなぎビーフの裏には、目の前のことに一生懸命取り組み、たっぷりの愛情を注いで牛を育ててきた農家さんの熱い思いがつまっている。