「森歩きツアー」というと、自然の中でリフレッシュしたり、森の生き物や植物について学んだりする、というイメージがありますが、参加者が「生き方や社会のあり方」について考えるきっかけを得るツアーが香川県で行われています。企画、運営するのは、元環境省自然保護官の男性。3カ月で200人以上が参加し、リピーターも多いというツアーの魅力とは?
「まさに癒やしの相乗効果!」人気の森歩きツアーとは
香川県まんのう町と徳島県にまたがる、標高1043メートルの大川山(だいせんざん)。10月上旬の早朝には山腹からの日の出と雲海を見ることができます。 10月2日、この大川山で行われた「フォレスト・メディテーション」には、6人が参加。午前6時に集合し、木々が生い茂る自然の中で5分、15分、30分と3回に分け、1時間ほどの瞑想を行いました。
参加者からは、「呼吸だけを意識して目を閉じると、陽の動き、風の流れ、樹々の香り、鳥の鳴き声など、1時間の森の動きを感じたような気がします」、「横山さんの優しくて穏やかな口調がとても心地よく、まさに癒やしの相乗効果!」という声が聞かれました。
ツアーの企画したのは“元自然保護官”
企画したのは、横山昌太郎さん(48)。広島県生まれの三重県育ち。環境省で9年間、国立公園事務所の自然保護官などを務めました。その後、長野県で森の生き物案内人を経験し、香川県に移住。森と地域のガイドとして、季節に合った森歩きや、夜明けから出発する森歩き、森の中で読書するツアーなど、試行錯誤しながら新しい視点と発想でチャレンジしています。
2020年6月から開始した森歩きツアーは口コミで広がり、3カ月間あまりで参加者が200人を超え、すでに4回もリピートしている地元の人もいると言います。
森の「多様性」を感じて…
元々自己肯定感が低かったという横山さん。環境省を退職した際には、周りから「ドロップアウトした」と言われたことがありました。しかし、森を歩いてみると、大きな木や小さな木、日影が好きな花があったり、シダやコケがあったりと、違ったライフスタイルをしている植物がたくさんあるということに気づきました。いわば「多様性」であり、それらが豊かな森や社会を作っていると言えます。
そこで横山さんは、周りになじめなくてしんどい人や、自分の生き方に悩んでいる人たちに、「森の生態系」を絡めた話をすることで何かを提供できるのではないかと考え、森歩きツアーを始めました。
「コケは陸上に出てきた最初の植物の仲間、いわばパイオニア。岩にくっつくために根があり、雨が降った時には体全体で水を吸収し、二酸化炭素を吸って光合成を行います。その中から1億年くらいかけてシダが生えてきました。シダは陸上の中で高さという三次元を獲得し、平面状の争いから抜け出して葉っぱで光を受けるようになりました。それができたのは、コケが土を作ってくれたからです。シダは葉っぱと根とを機能分化し、つまりイノベーションが起きたと言えます。進化を見ると、植物はすべて自分の『居場所』を作り出してきました。本来は私たちみんな違うはずです。違う生き方をするものが、いろいろといることで豊かな社会と循環できる社会が生まれます」と横山さん。
「自分自身を見つめ直す」きっかけ作りに
森はどんなものもすべて土に還って循環するのでゴミが出ない。そういう社会の在り方を自然に学んだり、自分に合った生き方を考えたりしてもいいのではないか。横山さんも20年くらいモヤモヤしながら、最近はある程度納得できる生き方になってきたと言います。
一般的な森のツアーは、森の中で気持ちよくなろう、森のことを学ぼう、という趣旨のものですが、横山さんのツアーは参加者自身がライフスタイルや生き方を考え、自分自身を見つめ直すきっかけ作りとなっています。だからこそ人を惹きつけるのかもしれません。
今後、井戸水で炊いた塩むすびを持って行う夜明けのツアーも計画されています。みんなが幸せに生きられる社会を作る横山さんのチャレンジは続きます。