中学生アーティスト兼起業家の挑戦「自分たちは決して特別な存在だとは思っていない。その可能性に本人が気付いていないだけ」その活動に迫る

中学生アーティスト兼起業家の挑戦「自分たちは決して特別な存在だとは思っていない。その可能性に本人が気付いていないだけ」その活動に迫る
Energetic SEIさん

Energetic SEIさんは、関西在住の中学2年生。小学生の妹と共にアーティストとして活動している。ピンバッチやステッカーから企業のユニフォームのデザインまで、その仕事の幅は多岐にわたる。その活動の原点は、小学5年生の時に始めたNFTアートの活動だ。

「小学3年生が夏休みの自由研究として作った、NFTアート作品が海外で数百万円相当で売れた」というニュースを聞き、自分も同じことができるのではないかと思ったことがきっかけだった。

「もともと絵を書くのが好きだったので、自分も描いた絵をNFTアートにして販売することにしました。最初の3ヶ月くらいはまったく売れませんでしたが、無料で参加できるNFTアートの展示会に出展し、当時小学生の自分と幼稚園児だった妹で、自作の名刺を使って営業活動を開始しました。当初は、子どもが頑張っているということで、応援の気持ちで作品を購入していただける人が多かったです」

はじめて展示会に出展した際に

風向きが変わってきたのは、今年の2月のことだった。名刺交換をした名古屋の塗装屋さんから、ユニフォームのデザインを正式な仕事として依頼されたのだ。

初仕事となったユニフォームのデザイン

これがきっかけとなり、メモ帳やお茶のデザインといった企業とのコラボレーションやミュージシャンの公式グッズのデザイン、ダンボールへのライブペイント、ダンボールワークショップなど様々な依頼が舞い込んでくるようになった。

「自分たちのデザインが、商品となって広まっていくことはとっても嬉しかったです。デザインする楽しさを知りました」

制作したコラボグッズ

「嬉しい反面、戸惑いも大きくて。どうしたらいいかと思っていた時に、中学2年生の息子が社長をしている野田拓也さんの親子副業に関する本を偶然X上で見つけました。これだ!と思い、父と会いに行きました。これが大きな転機になりました」

野田氏のアドバイスを踏まえて、今年3月に妹と父と共に株式会社RIDE ONを創業。SEIさんが社長に就任した。父からマーケティングについてアドバイスを受けつつ、本格的にビジネスとしてやっていくことを決意した。

「企業の皆さんは、子どもらしいデザインに期待してお仕事を依頼してくださっています。確かにプロの大人の方のデザインは上手です。しかし、子どもにしか描けない斬新な絵は、見る人に強いインパクトを残すことができます」

実際に、会社の壁のデザインを依頼した印刷会社も、工業地帯で似たような景観の工場ばかりだったため、子ども視点で斬新なデザインをスプレーアートで作ってほしいというニーズだった。SEIさんのスプレーアートの先生も「子どもはいずれ上手くなる。だからこそ、今しか描けない絵に価値がある。安売りしてはいけない」と常に語っているという。

スプレーアート制作中の一コマ

「大人たちは、決して僕たちのことを子ども扱いせず、対等に接してくれています。もちろん、時には厳しくデザインの内容について議論をしたり、要望をいただいたりしますが、大変で難しいこともあるけど嬉しいし楽しいです」

忘れてはいけないのが、SEIさんが同世代と同じように学校に通っている中学生であることだ。サッカー部に所属し、勉強も少し苦手だが頑張っているという。サッカーでレギュラーを取るにも、事業を拡大するにも、しっかりと練習や営業活動に時間を費やす必要があり、両立は簡単ではない。だが、自分なりに時間配分を選択しながら、学校生活と事業にも取り組んでいる。

「自分たちは決して特別な存在だとは思っていません。誰もがアートを描けて、それに価値をつけられると思っています。その可能性に本人が気づいていないだけ、あるいは周りの大人が気づけていないだけだと思います」

もっと同世代のアーティストを増やしたいと思ったSEIさんは、東京・名古屋・大阪の3都市で同世代の子どもたち向けにダンボールアートを体験してもらうワークショップを行った。実施するための費用はクラウドファンディングで募集し、207%もの成功率となった。
子どもが作った作品を大人が買うことが当たり前になるという、新しい時代が訪れようとしているのかもしれない。

同世代の子どもたちとのワークショップ

「どうしたら私たちのデザインに興味を持ってくれるかな。どうしたら売れるかな。そう妹と考えながら試す日々です。これからもどんどん事業を拡大して、自分のデザインした作品をたくさんの人に届けていきたいと思います」

SEIさんたちの活動からは、子どもたちの持つ可能性の大きさを痛感する。これからは、自ら稼ぐ力を持った子どもたちが増えていくのかもしれない。守られ、施される存在であることが当たり前だった「子ども」の概念も変えうる、画期的な活動の今後に目が離せない。

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