地方大学でどう地球社会にエンゲージメントする学生を生み出すのか?岡山大学での取組を探る

地方大学でどう地球社会にエンゲージメントする学生を生み出すのか?岡山大学での取組を探る
横井篤文さん(写真左)・市川太一さん(写真右)

岡山大学副学長と教授をつとめながら、持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)にかかるユネスコチェアホルダーとして活躍をしている横井篤文さん。講義の合間に世界各国で行われる国際会議での情報をリアルタイムで学生たちに伝えています。

SDGsのすべてのゴールの基盤といわれるESDについて、岡山地域での実績をふまえながら、国連機関と大学を直接連携させて、多国間で地球社会に資する教育プロジェクトを推進している (提供写真)

世界の次世代リーダーから学ぶグローバルキャリア授業

今年6月「地域と地球のありたい未来を共創し、世界の革新に寄与する大学」をビジョンとして掲げる岡山大学にて、学部学生を対象に教養科目としてグローバルキャリアの授業が開講されました。

講義には、様々な国の社会起業家や、平和・環境など各分野で活動・複業するサステナビリティ・リーダーたちが、ゲストスピーカーとして毎回オンライン等で参加し、人生の意思決定について講義やディスカッションをしました。

(横井さん)「人間が世界を謳歌する時代はおかしい、人間のみが成長し、その他生命を育む地球を傷めてしまっていることに対して、大学として何とかできないかという思いがありました。地球という最も大切なステークホルダーがないがしろにされていたのです。その中で、今回の講義に一緒に取り組んだ市川さんのビジョンが、わたしのモチベーションとクロスしました。市川さんとは世代は違えど、ほぼ同じ様な目線で向いている方向が同じだと感じました。多国間で、多世代で地球社会にエンゲージメントするという視点です」

講義の教科書として活用したのは、書籍『WE HAVE A DREAM』
201ヵ国202人の若者の夢を集めたのは「地球を1つの学校にする」というミッションを掲げるWorld Road市川太一さんです。

(市川さん)「この本に登場する人たちが目の前に現れて、自身のキャリアパスの話をし、学生とやりとりをしたら面白いのではないかと思い、横井先生に相談しました」

講義に参加した学生からは「自分がしたいと思っていることを諦めることなく挑戦し、さらにそれを通して社会のために貢献しようとしている姿に感動しました。僕も、自分の好きなことから社会に役立てるように発展させていきたいです」という声が聞かれた(提供写真)

(市川さん)「若い頃に、海外の人たちにたくさん出会っていたら、もっと自分が勉強したいこととか、進路のことをいっぱい考えるかなと思っているので、その環境をできるだけ、場所とか関係なく作りたいなと思って活動しています」と話す市川さんは、福島県いわき市出身。親の影響で、海外に興味はもっていたものの、世界や海外とはほど遠い学生時代を過ごしていました。

(市川さん)「世界に好奇心をもっていたものの、自分がやりたいことと、環境が一致していない感じでした。でも、自分自身が世界とつながる経験をしたことは、人生のモチベーションをあげてくれました。熱量が出てきて、もっと成長したいと思わせてくれました」

学生が、普段の生活の中で接する機会のない多彩なバックグラウンドや、キャリアをもつ世界の若手リーダーからの直接講義を受けることで、世界を広げてほしいと考えている市川さんと横井先生。実際に行った講義では、AI翻訳機能や意見集約アプリ等のデジタル学習支援ツールが駆使され、言語の壁を越え、積極的な発言や交流をハイブリッドで促進しながら進められました。

講義は、インドネシア、セーシェル、ポルトガル、ネパール、オマーンからの次世代リーダーたちと対話形式ですすめられた(提供写真)

(横井さん)「今、国際コミュニティ―では、人間だけでなく、すべての生命共同体に敬意と配慮をした地球社会について議論が深まっています。なので、多国間主義や世代間連帯がより重要です。しかし、言語の壁や最近では物価高のせいもあり、グローバルな機会に触れることがますますできないまま社会に出ていく人たちが数多くいます。これからの未来を多国間並びに多世代で共創していかなければならないのですが、ここに大きな社会課題があるわけです。特に日本で言えば、地方はその傾向が加速しています」

キャンパスでこうした多くの学生に如何にして多文化共修の機会を提供すればよいのか。学生のための「キャンパスエンゲージメント」にどのように取り組むかが鍵となってくると横井さんは話します。

キャンパスからローカルへ、ローカルからグローバルへ

横井さんは、各都道府県の歴史や風土、文化に敬意と配慮をしつつ、さらにそれらとシナジーを生み出しながら大学が地域のエンジンあるいは中心となってグローバル化やSDGs達成のための取り組み化を共に推進することが大切だと指摘しています。

そうすることで、それぞれの地域の固有性や唯一無二といった強みや弱みが相互に補完強化され、その結果、47都道府県が総体として多様性のある*サステナビリティとウェルビーイングの高い状態となって国力が上がる。そして日本が地球社会にエンゲージメントするという連鎖が起きていくのではないかと仮説を立てています。

(横井さん)「地方ほど多くの学生が多文化共修の機会に接していません。一部の英語が出来るエリートな学生だけが留学したり、国際会議などに参加したりしている現状があります。なので、先ずはキャンパスエンゲージメントを深化発展させ、その結果、学生のほぼ全員がローカルエンゲージメントやグローバルエンゲージメントの機会へ進んで参加できる仕組みづくりがとても重要になってきています」

世界最大級の次世代リーダー・グローバル・サミットOne Young World(OYW)の2014年アイルランド大会の出逢い以降、世代間の壁を越え、10年の年月をかけ、岡山大学内での「We Have a Dream」の展示会、夢育などのプロジェクトを共同ですすめてきた(提供写真)

横井さんは、学生と留学生をキャンパス内でどう交流させるか、キャンパス内でオンラインやハイブリッドを活用し、学生をどう世界のコミュニティや国際の世界に触れさせることができるか、多様な学習体験の機会をつくることを大切にしています。

(横井さん)「岡山は、ESDの分野では、国連機関に認められた歴史的な世界拠点のひとつです。ESDのユネスコチェアを有する岡山大学だからこそ、ESDを中核に据え、AIとテクノロジーの進歩を活用した授業を全学へ展開することで、普段は多文化共生に触れる機会の少ない大勢の学生をエンパワーメントしていきます」

若者とともにつくる地球の未来

2024年9月、国連歴史上前例のないサミットともいわれる「国連未来サミット(Summit of the Future)」が、アメリカ・ニューヨークの国連本部で開催され、横井さんも国連機関のオブザーバーとしてサミットに招待参加します。

(横井さん)「未来サミットで採択予定の『未来のための協定(Pact for the Future)』の5つの章の中でも『若者および将来世代』の『世界的な意思決定への若者の参加』は特に重要になってきます。若者がもっている『夢』と一緒にどうありたい未来を共創していくのか、そしてどのような『地球社会』を共に実現していくのか」

インドネシアのOYWアンバサダー、マージアンタさんが、岡山大学に来校し講義を行った(提供写真)

地方や今まで国際に触れたことがなかった人たちがいかにそうした機会に触れやすくなる状況を生み出していくのか、そしてその仕組みをいかにローカライズしていくのかが、これからの地球社会の課題解決のために重要である、とお2人の熱い話を聞きながら筆者は確信しました。

世代間、国家間・多国間で連帯し、現在地球社会が直面する問題を解決するために必要な理論や知識に裏付けられた判断力、リーダーシップ、チーム力を身に着けた若者と“一緒に”、これからの地球社会の未来をつくっていく。これからのキーワードは「地球」「未来」「若者」「夢」にあるのかもしれません。

*サステナビリティ:持続可能性、おもに「”人間・社会・地球環境”の持続可能な発展」という意味で使われる
ウェルビーイング:身体的な健康、精神的な健康、社会的に良好な状態、これらすべてが満たされた状態

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