26歳で脱毛症を発症し、3ヶ月で全身の毛が抜け落ちた…「カッコよく人生を謳歌したい」そんな中でも力強く人生を歩む理由に迫る

26歳で脱毛症を発症し、3ヶ月で全身の毛が抜け落ちた…「カッコよく人生を謳歌したい」そんな中でも力強く人生を歩む理由に迫る
お化粧をする葉月さん(wiglife.hazukiさんより提供)

「カッコよく人生を謳歌したい」と語る現在46歳の葉月さんは、26歳で脱毛症を発症し、3ヶ月で全身の毛が抜け落ちてしまいました。自身を「脱毛症ママ」と呼び、そう感じさせないカッコいい姿をSNSで発信しています。葉月さんに、脱毛症と向き合ってきた人生について話を聞きました。

留学がきっかけで摂食障害に

葉月さんは高校3年生からアメリカに留学。その期間に無理なダイエットをしたことが原因で、摂食障害(過食症)になりました。さらに過食症が引き金となり、大学のときには鬱病も併発して大学を休みがちに。そのため、大学3年時に休学を決意して日本に帰国します。

しかし、輝く未来への道を閉ざしてしまったという挫折感と、両親のもとに帰ってきた安心感で気が抜けてしまい、さらに過食症と鬱の症状がひどくなったのです。その後、精神科への入院も経験しながら、学校へも行かず仕事にも就かず、4年間引きこもった生活をしていました。

葉月さんは「常に挫折をした自分を責め、周りと自分を比べては自分の境遇を呪い、そんな自分の感情から逃げるようにずっと意味のないテレビや過食行動に逃げていた」といいます。

数週間でほとんどの毛が抜け落ち…

引きこもり生活をしていたある日、寝転びながらテレビを見ていたとき、ふと頭に手をやるとツルツルとした感触が…。母に見てもらうと、10円玉くらいの脱毛箇所があり、最初は「普通の円形脱毛症かと思った」と話す葉月さん。

しかし、すぐに10円玉が1つから2つに、大きさも10円玉から100円玉、そして500円玉に。そして、数週間でほとんどの髪の毛が抜け落ちてしまいました。
葉月さんは「そのつらさのためか、自分を守るためなのか、どれくらいの期間で髪が抜け落ちたかは定かではなく、あまり記憶に残っていないんです…」と当時のことを振り返ります。

その中でも唯一覚えているのは、ほとんどの髪の毛が抜けて落武者のような状態になったときのこと。
「惨めな自分を鏡で見て、そんな自分をメチャクチャに壊したくなりました。そして、発作的に引き出しにあった剃刀で残っていた自分の髪の毛を全部剃り落としました。こんな状況まで落ちてしまった自分への怒りと悲しみの感情が、後から後から涙と一緒に沸いて出てきました」と葉月さんは話します。

そして「ここまでどん底に落ちたら、あとは這い上がるしかない」 と、強く「生きたい」という感情が体の奥底から湧き出てきました。

「脱毛症は、自分の免疫が自分の細胞を攻撃するという『自己免疫疾患』ということが分かっており、必ずしもストレスが原因というわけではありません。しかし私の場合は、数年間にわたる強い自己否定の感情や、摂食障害による栄養の偏りが少なからず関係していると自分では思っています」と葉月さんはいいます。

ウィッグを被ることの苦労

脱毛症になってからは、ウィッグを被るようになった葉月さん。しかし、ウィッグを被っていると、水に浸かること、汗をたくさんかくこと、強風に吹かれることが怖く、億劫になり避けるようになったといいます。

「脱毛症のことを打ち明けていない友人からサーフィンに誘われたことがありましたが、差し障りのない理由をつけて断らざる終えなく、とても悲しく感じました」

ロングのウイッグを被る葉月さん(wiglife.hazukiさんより提供)

「ウィッグはとても蒸れるのと、汗がウィッグの隙間から滝のように流れるので、特に暑い夏は大変です。またずっと同じヘアスタイルのウィッグを被っていると、友人から『いつも同じヘアスタイルだね』と言われたり、 反対にウィッグを新調してヘアスタイルが変わると、周りから変に思われるんじゃないかとドキドキしたりしました」という苦労も。

葉月さんは脱毛症の中でも一番重度で、体のすべての毛が抜けてしまう「汎発(はんぱつ)性脱毛症」というタイプ。
そのため眉毛やまつ毛、鼻毛も生えていません。そうすると、鼻水が垂れやすかったり、また目にほこりが入りやすかったりなどの症状にも悩まされるといいます。

メイクやファッションの投稿を始めたきっかけ

葉月さんのSNSではメイクやファッションの投稿が印象的です。そうした投稿を始めた過程についてこう話していました。

「眉毛やまつ毛がなくなると、顔の印象がとても変わります。最初は思う通りに眉毛を描くことができませんでしたが、自分で研究したり、プロの方にメイクを習ったりするうちに、少しずつ眉毛やまつ毛メイクが上達していきました。また、長く脱毛症と付き合っているうちに、脱毛症についての知見もいろいろと溜まり、せっかくならそれを発信して、同じように悩んでいる人の役に少しでもなればいいと思ったのがきっかけです」

お出かけ前の葉月さん(お化粧をする葉月さん(wiglife.hazukiさんより提供)

発信を始めてみたところ「かっこいい」という声や、同じように病気で悩んでいる方から「ありがとう」という感謝の言葉をもらった葉月さん。

そうした声をいただく中で「自分の発信が誰かの役に立ったということが自分の中での自信につながり、また過去の自分から解放されていっている感覚があった」と話していました。
一番大きな収穫は、与えるよりも与えられているものの方が大きく、周りや自分の境遇に感謝できるようになったことだといいます。

SNS発信を含めてカミングアウト

葉月さんが発信を始めたころは、親しい友人にしか脱毛症のことをカミングアウトしていませんでした。
「発信を始めてから、もっと広く脱毛症のことをカミングアウトしたいという思いが沸き起こり、 職場の同僚やそれまで伝えていなかった友人にSNS発信をしているということを含めカミングアウトをしました」

そして、カミングアウトした相手の知り合いや家族に、同じ脱毛症の人がいたことに驚きました。さらに、多くの人が一人で悩んでいるのでは…と感じたといいます。
「カミングアウトして一番怖かった反応は『髪の毛がないなんて、かわいそう』と思われることでしたが、ほとんどの方から好意的な反応をもらえてホッとしました」

お化粧をする葉月さん(wiglife.hazukiさんより提供)

「Style with Wigs」

葉月さんの若いころからの憧れは、夏木マリさんや冨永愛さん、宮沢りえさんなど自分のスタイルを持っているかっこいい人。

「私にとっての『かっこいい』を紐解いていくと、単に可愛いとか美人とかではなく、自分のスタイルを持っている人、自分軸で生きていること、背筋がピンとして凛とした人というイメージです。また、スタイルとはファッションや見た目だけではなく、生き方そのものに現れると思っています。どんな境遇になってもどうせならばそれを受け入れ、かっこよく変換してそれを自分の生き方にしよう」

そうした考えから「Style with Wigs」という言葉を作ったという葉月さん。そしてその言葉を世の中に広げたいといいます。

現在のような考えは、留学時にさまざまな人との出会いも関係していました。
「髪の毛を失う前の若くて多感な時期に、多様性のある美の感覚にたくさん触れる機会がありました。その出会いと出来事があったから『スキンヘッドになった自分も、もしかしたら美しいのではないか』と、脱毛症になった当初から感じていました」

そして、そのときに思い浮かべたイメージが、自分の目指している理想像になっていると話します。

脱毛症の自分だからこそできることがある

自分の生き方を模索しているとき「自分だからできることはなんだろう?」と必死で考えた葉月さん。
そして「脱毛症の自分だからこそできることがあるのでは…」ということと、一番の自分の強み「ファッションが好き」を絡めたらオンリーワンのコンテンツになるのではという考えに行き着いたといいます。

その後のSNSでの発信で、周りや自分の変化について話してくれました。
「知り合いは気負いなく応援してくれています。脱毛症のことを伝えたときもあまり大ごとに捉えず、淡々と受け止めてくれたのがありがたかったです。SNSの中で、同じ症状の人たちともたくさん出会いがありました。私の投稿を見て絶望から這い上がることができたとか、希望が持てたという連絡をときどきいただくのですが、本当に嬉しく思うのと同時に、発信をしてよかったと自分への自信やモチベーションにも繋がっています。また、同じくヘアロスのことを発信している人たちの投稿を見て、私もたくさん勇気づけられています」

最初の頃はアカウントに鍵をかけた状態から始めた葉月さんでしたが、すぐに誰にでも見ることができる公開ステータスへ。

お化粧をする葉月さん(wiglife.hazukiさんより提供)

また、スキンヘッドの自分の姿は自分では好きだけれども、すごくプライベートな姿だとも思っているという葉月さん。
「最近まであまり表に出すことはしていなかったのですが、いろいろな方の発信を受けて心境に変化があり、スキンヘッドの自分も気負いなく表に出せるようになりました」

実は最近、SNSでウィッグや帽子をとってメイクを始めたという葉月さん。特に「かっこいい」「骨格が綺麗」など自身がまったく思っていなかった反応があったといいます。
「びっくりしたのと嬉しさと、あとはこうしたスキンヘッドな人でも悪くないと脱毛症の人が思ってくれればいいなと思いました」

今後については「好きなファッションやメイクを通じて、髪の毛がなくても『カッコよい』を体現したいです。そして、髪の毛がなくても何も諦める必要がないということを伝えていきたいと思います」と話してくれた葉月さん。

そして今後の目標はコンデナスト・パブリケーションズが発行するファッション・ライフスタイル雑誌『VOGUE』に載ることです。また「Style with Wigs」という言葉をブランド化して、世の中に広げたいという目標も。

脱毛症になっても人生を楽しみ、挑戦を続けている葉月さんから勇気づけられる人も多いのではないでしょうか?

出典:日本皮膚科学会『脱毛症』


出典:こころの情報サイト『摂食障害』

摂食障害|こころの情報サイト

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