「もし可能なら、平日に能登半島地震の避難所に慰問したいなと思っているのですが、勝手に行っても迷惑がかかると思って悶々としています。どこに問い合わせればいいのかもわからなくて」
そう語るのは、愛知県出身のめおとパフォーマー「あおき 三朝(さんちょう)+うたこ」の黄うたこさん。平日に仕事が入ることは少ないため、被災者の気分転換にでもなれば嬉しいと言います。
「あおき」は名字ではなく、覚えやすいように色の「青」と「黃」を表しているとのこと。衣装だけでなく、髪の色から眼鏡のフレームに至るまで、三朝さんは「青色」を、うたこさんは「黄色」のものを着用しています。
日常生活においても「青」と「黃」で生活しており、その見た目の特徴から数回しか行ったことのないショッピングモールでも覚えてもらっているそう。
愛知県出身のあおき 三朝+うたこさんは現在滋賀県長浜市に移住し、全国のさまざまな地域でアクロバットを中心に夫婦で活躍しているパフォーマーです。
今回はそんな三朝さん、うたこさんが出会ったきっかけやパフォーマンスを始めたきっかけ、最近の困りごとなどについて詳しく伺いました。
青と黃の出会いはパントマイム教室
高校生のときにテーブルマジックを始めたという三朝さんと、イベント会社に所属してクラウンとして活躍していたうたこさん。2人の出会いはパントマイム教室だったそうです。
日本では「ピエロ」と呼ばれることが多いクラウンですが、ピエロは悲しみを表現するクラウンの役名を指します。一方、クラウンは道化師全般を指す言葉であり、うたこさんはピエロではなくクラウンでした。
「それぞれ、パントマイムは自分のやってることに役立つのではないかと考えて参加したのですが、そこで出会いました」
と語る三朝さん。その後意気投合し、一緒にショーに出演することも増えたといいます。現在のように「あおき」を名乗るようになったのは、パントマイム教室からしばらく経った2000年のことでした。
「じつはミレニアル芸人なので、あおき 三朝+うたことしての活動は今年で24年目になります」
三朝さんは感慨深そうな表情で語ってくれました。
2人で何ができるだろうと考えた結果
2人でできるパフォーマンスは何かと考えた結果、たどり着いた方法がコンビで合わせやすいジャグリングでした。最初はジャグリング漫才のようなパフォーマンスをしていた2人ですが、三朝さんが糖質制限の流行りに乗ってダイエットに成功したことを機に、新たな道を模索したとのこと。
「体重が減ったら、何か別のことができるのではないかと考えるようになりました。そんなときに知ったのが、アクロヨガです。自体重トレーニングはつまらないので続かないのですが、2人で取り組む他体重トレーニングは楽しくて」
アクロヨガの動画を見ながら2人で取り組んでいるうちに、アクロバットをパフォーマンスとして取り入れる考えに至ったと三朝さんは語ります。一方、アクロヨガを深く習得し、インストラクターを目指すなどは考えなかったとのこと。
うたこさん自身にヨガの思想がなく、当時はまだアクロヨガ自体が日本国内ではマイナーであり、資格取得の難易度も高かったそうです。
体育会系的な練習はしない
YouTube動画や実際のショーの中では激しい動きを見せている2人に、日々のトレーニングについて伺いました。
日々のトレーニングは決してハードなものではないと三朝さんはいいます。
「派手目に見える技を選んで披露しているだけで、体育会系的なトレーニングをしているわけではありません。新しい技を練習するときは筋肉痛になることもありますが、すぐに慣れますね」
身軽に見えるうたこさんは、意外な悩みを打ち明けてくれました。
「ずっとトレーニングしているのですが、未だに懸垂はできません」
アクロバットでは逆立ちをしたり、三朝さんの足の上で回ったりと身軽なイメージがあり、にわかに信じられません。しかし、YouTube動画には、うたこさんが懸垂のトレーニングに四苦八苦している様子が収められていました。
ところで、そんな2人はどうして出身地ではない滋賀の田舎町に移住したのでしょうか。
愛知県から東京、滋賀へと移住
三朝さん、うたこさん夫婦はともに愛知県名古屋市の出身です。東京への移住を経て5年前から滋賀県長浜市に移住したといいます。滋賀県に移住してきた理由について伺いました。
「滋賀に来る前は東京に6年間住んでいたのですが、住んでいた建物が取り壊されることになったのを機に移住しました。ちょうど東京での暮らしにも飽きてきたころだったのもあります」
と、うたこさん。滋賀県を気に入ったのは三朝さんの方でした。
「獅子舞の仕事で滋賀を訪れたときに、いいところだなぁと思ったのがきっかけです」
移住をしたのは新型コロナが流行する直前だったといいます。コロナ禍には仕事が減ったそうですが、コロナが落ち着いた現在がもっとも困っていると打ち明けてくれました。
滋賀での仕事が少ない
「自ら営業活動をしておらず、仕事の依頼はすべて人の縁でつながっている感じです。今も古くからつながっている愛知や岐阜方面での仕事が多いのですが、地元の長浜市での仕事があまりありません。イベントを探しているのですが、なかなか見つからない状況です」
三朝さんに続いてうたこさんも付け加えます。
「切実な悩みを言えば、ホームが欲しいですね。『ここでやってるよ』っていう、ステーションみたいな場所ができればうれしいのですが…」
取材当日も地元でのイベント予定がキャンセルになったとのこと。いつでも2人のパフォーマンスが見られる場所があれば、ファン増加にも期待が持てます。
お爺ちゃんお婆ちゃん総バルーンアーティスト化計画
ホームが欲しいと語る2人ですが、自治会の小さなイベントに呼ばれることもあるそうです。
「とくに平日のご依頼は喜んで引き受けています。今の目標は、長浜市内のお爺ちゃんお婆ちゃん全員がバルーンアートで犬を作れるようになることです」
そう楽しそうに語るのはうたこさん。年配層のイベントでは1時間枠をもらうことがあるといいます。2人だけで1時間のアクロバットやジャグリングなどを行うことはもちろん可能です。
しかし、観客側は集中して1時間見続けることは困難。そこで、間にバルーンアートを挟み、一緒に犬などを作ってもらうとのこと。長浜市内では、徐々に犬を作れるお年寄りが増えていると、話しながら表情もほころびます。
日本全国を制覇したいが広報活動は苦手分野
三朝さん、うたこさんに今後の活動予定について伺いました。
「まだ日本国内でも行ったことがない地域がいくつかあるので、全国制覇が夢です」
と、うたこさん。さらに三朝さんも熱い思いを語ってくれました。
「韓国へ往復する船の中のアトラクションと、韓国でのフェスにも参加したことがありますが、東北、四国、九州ではまだ行ったことがない県があります。もちろん、滋賀県での依頼も嬉しいのですが、その他の色々な地域の人ともつながりたいです」
東京都生活文化スポーツ局の「ヘブンアーティスト事業」にもアーティストとして登録されているため、稀にホームページからの依頼もあるといいます。しかし、広報活動をしていないないので、ほとんどが直接の紹介や地元の小さな新聞記事を頼りにしている状態とのこと。
「現状、情報収集能力が圧倒的に足りていない状況です。ですから、開催直前にイベントを知ることが多く、なかなか仕事が獲得できません。さすがに直前に問い合わせても断られる事は多いので、もっともっとアンテナの感度を上げられるようにしたいです」
うたこさんは、取材翌日のイベントへの参加も見送ることになったと言います。三朝さん、うたこさんともに見ている人を楽しませるパフォーマンスは得意ですが、広報活動や営業活動、企画などは苦手分野とのこと。
一つずつ手順を踏み、駒を進めていってほしいところです。多くの人の笑顔に包まれる、三朝さんとうたこさんの楽しそうな表情が目に浮かびます。
X:@aokiSanchoUtako
YouTube:あおき 三朝+うたこ