盲導犬や警察犬など、私たちの身の回りでペットとしてではなく働いている犬がいます。“ファシリティドッグ”もその仲間ですが、みなさんは聞いたことがあるでしょうか。
小児がんや重い病気と闘う子どもとそのご家族をサポートするNPO法人『シャイン・オン・キッズ』。その団体の事業のひとつにファシリティドッグがあります。
今回シャイン・オン!キッズ広報担当である金さんに話を聞きました。
病気の子どもたちをサポートする
ファシリティドッグの役目は、長期療養中の子どもたちが笑顔を忘れずにいられるようサポートすること。
例えば、日常のなかで必要な遊びや歯磨きなど生活ケアの援助、気分が不快なときなどの添寝、検査や点滴・痛みの伴う処置や治療などの付き添い、リハビリテーションや、手術室への移動の付き添いなど、子どもに寄り添うサポートをしています。
大人でさえ病気に立ち向かうのは怖いでしょう。子どもであればもっと怖いはずです。いつも側にいてくれるだけでどんなことも頑張れそうですね。
実際にファシリティドッグと触れ合った子どもや、そのご家族からはこういった声があがっています。
「抗がん剤などの辛い治療のときに、一番来てほしいと思ったのがファシリティドッグだった。ファシリティドッグがいると、心強く、気持ちを落ち着かせることができた」
「ファシリティドッグと触れ合っているときは、不安な気持ちが消えて嫌なことを忘れられる」
「退院したあと、外来受診で直接会うことはないけれど、今日もこの病院のどこかでファシリティドッグが、他のお友だちの応援に行っていると思うとがんばれる」
「命がけで闘病した息子にとって、ファシリティドッグやハンドラーさんは、懸命に支えてくださった同志です」
ファシリティドッグは、確実に子どもたちやその家族の支えになっています。
またファシリティドッグは、ターミナル期の子どもとご家族にも介入します。
辛い日々の中で、言葉を話さない犬だからこそすべてを受け止めるかのように、その場の空気を和ませる力を持っていると、医療者からも評価を受けています。
シャイン・オン!キッズが行った独自の研究によると、医療従事者からはターミナル期の緩和ケアが一番有用性を感じるという結果も出ています。
ファシリティドッグプログラムを始めたきっかけ
シャイン・オン!キッズにて、ファシリティドッグプログラムを始めたきっかけについて聞きました。
理事長であるキンバリさんには、タイラーという息子がいました。タイラーは、生後1ヶ月にも満たない時に急性リンパ性白血病と診断され、わずか23ヶ月でこの世を去りました。
タイラーの旅立ち後、キンバリさんは、ハワイの病院で偶然ファシリティドッグに出会います。
ファシリティドッグは、入院中の子どもとその家族を支えるための革新的な社会心理的サポートであると直感したキンバリさん。
その後2008年にファシリティドッグ日本導入委員会の立上げと資金調達を行い、2010年に静岡県立こども病院に初めてファシリティドッグが導入されました。現在は4つの日本の病院に導入されているとのこと。
ファシリティドッグは、補助犬育成団体の世界的な組織である Assistance Dogs Inteational (ADI)の基準に沿って育成され、ハンドラー(ペアを組む臨床経験のある看護師)の方とともに、特定の病院に常勤して患者さんと触れ合います。
ハンドラーとファシリティドッグは基本的に休日も含め、生活を共に過ごします。ファシリティドッグにとってハンドラーは信頼できる仕事のパートナーであり、家族でもあります。シャイン・オン!キッズでは、犬と病院でフルタイムの活動をするにあたって、ハンドラーとファシリティドッグの絆が形成されていることを第一としています。
ファシリティドッグもハンドラーと共にいることにより、安心して活動してくれるようです。
ファシリティドッグはずっと仕事をしているの?
休日も含めハンドラーと生活を共に過ごすファシリティドッグでずっと仕事をしているわけではなく、”働くこと”以上に”休むための”工夫がされています。
シャイン・オン!キッズでは、患者さんへの介入(活動)でも、ファシリティドッグが「楽しい」「心地よい」と感じるアクティビティをとりいれたり、犬が嫌がることは子どもにも伝えたり、避けられるような環境を設定しています。
疲れやストレスを感じる前に切り上げるなど、活動時間や内容も工夫します。
動物福祉の国際指針に基づき、病棟での活動1時間毎に、1時間の休憩が設けられ、1日の活動時間は3時間程度を目安にしています。
また、ハンドラーの初期研修で、犬のボディランゲージやストレスサインについて学んでいます。
日々の活動後には、十分に散歩をし、休日には自然いっぱいの場所で遊んだり、走ったりと、犬らしい時間を過ごし、リフレッシュできるよう、たくさんのことに気をつけているようです。
認知を上げていきたい
金さんによると、ファシリティドッグを広めるための課題は常にとても多いとのこと。
しかし、ファシリティドッグの前例がなかった日本で、約10年かけて4病院に6頭のファシリティドッグを導入したのは大きな進展と言えるといいます。
今後もファシリティドッグを広めるために、まず認知度を向上させたいとのこと。
「ファシリティドッグはただ『賢い犬』ではないことを知ってもらいたいです。犬の個性に合わせて専門的にトレーニングを重ね、約1年半~2年半かけてチームを輩出、活動開始後の十分なフォローアップ体制など、安全面で確実な体制を構築するためのコストは惜しみません。動物の福祉を第一に、より質の高い活動にするために、専門家で構成するアドバイザリーボードや海外の最新事情に長けた医療アドバイザーなど、多種多様な人材のチームも携えています。
費用をかけるに値する事業内容であることが少しずつ評価され、おかげさまで、導入先の病院からも費用負担をしていただけるようになりました。しかし、育成事業に関する部分はすべて自団体で負担しています。育成する犬‧ハンドラー‧ドッグトレーナー/インストラクターをはじめ、実践や指導に関わるスタッフの育成体系確立(研修カリキュラム、認証制度、評価制度)や、育成に投資してもらえる寄付訴求も行っていきたいです」
費用面に加え、病院にとっても、導入にはいくつかの負担があるファシリテドッグですが、導入希望病院からの問い合わせが増加しています。
導入希望の問い合わせがあった25病院中、複数の病院では予算にも前向きに検討しているようで、まだまだ普及していく見込みがあります。
そして、現在ファシリティドッグの国内育成の新体制を強化しているとのこと。2026年までに新たに5チームの育成を計画しています。
今日も病気と闘っている子どもたちがいます。ファシリティドッグがたくさんの病院で導入され、1人でも多くの子どもたちが不安から解放されてほしいですね。