ダウン症と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。「名前は聞いたことがあるけど、詳しくは話せない…」という人も少なくないでしょう。
ダウン症がありながらも、俳優や、ダンスの活動をしている吉田葵さん(Instagram:@aoi.sachi)。NHKドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』でメインキャストの岸本草太を演じました。
また、現在上映中で、第96回米アカデミー賞国際長編映画賞部門にノミネートされた『PERFECT DAYS』に、でらちゃん役で出演しています。
演技のお仕事やダウン症について、葵さんとお母さんに話を聞きました。
工夫した生活を
葵さんは身体に心臓の合併症があり、生後7ヶ月で手術をしています。運動制限はないためダンスの活動も積極的に行っているそうです。
また、葵さんは『視覚優位』という耳で聞く情報より、目で見る情報の方が理解しやすい特性があります。葵さんが行動しやすいよう、予定をカレンダーに書いたり、ホワイトボードにやることを書いたり、アナログ時計やタイムタイマーを使って、残りあと何分かが見えるようにしたり工夫して生活しているとのこと。
完璧に生活できるわけではありませんが、見通しを持つことで葵さんは安心して動けるようです。
ドラマの撮影のときは”目で見る情報の方が理解しやすい特徴”を活かしてこのようなことも。
演技サポートの方に言葉での指示と同時に、ノートに簡単な箇条書きで指示を書いたものを見せてもらったそう。ノートの文字を見ることで、指示の理解が深まったようです。
簡単な日常会話はできる葵さん。自分の思いを言葉にするのが難しいときがあるため、音読やInstagramの文章を自分で書くことで、楽しく続けられる方法で学習しているそうです。
自分に合う方法を見つけることで生活を楽しんでいるようですね。
「性格は、静より動です。書道や絵が得意なダウン症のある人も多いですが、葵の場合は、幼少期から動くことが大好きなので、リトミックやモダンバレエを始めました。ただ、文字を書くことは大好きで、よくiPadで調べものをしてノートに書き写したり、嬉しそうに一人暮らしの計画を書いたりしています」と葵さんのお母さんは話します。
ダウン症は「僕の特徴」
ダウン症についてどう思っているか、葵さん本人に聞くと「ダウン症のある仲間が学校や習い事の場にはたくさんいて、とても幸せです。
あと、ダウン症のある先輩たちが一人暮らしをしていて憧れます。僕にとってダウン症は大変ではなく、僕の特徴です」と前向きに捉えているようです。
お母さんによると、ダウン症があることは、葵さんが小学5年生のときに伝えたようです。伝えたきっかけは「どうして頑張って練習しても徒競走で1位になれないんだろう」と葵さんが悔しがっていたからでした。
この葵さんの言葉にお母さんは「葵にはダウン症があって、体の特性として筋力が通常より弱いからあまり速く走れないんだよ」と伝え、さらに「徒競走で1位になれなくても、バレエや指揮者は上手にできるからいいじゃない。人には得意不得意があるから、好きで得意なことを頑張っていったら?ダウン症のある人たちは世界中にたくさんいるよ!」と前向きに捉えるよう声をかけました。
すると、葵さんは「なんだ、そっか~わかった」と答えたようです。
負けず嫌いな性格のため、それからも何かの競争で負けると悔しがる様子を見せる葵さん。
そんなときは「そうだ、筋肉が違うんだった」と自分で納得していると話してくれました。
俳優にチャレンジ
葵さんには兄がおり、俳優にチャレンジしたのはお兄さんがきっかけでした。
「中学生のとき、お兄ちゃんがたくさん舞台やテレビに出ているのを見て憧れていました(お兄さんはチアリーディングをやっていました)。お兄ちゃんの姿を見て僕も、テレビやお客さんの前に出たいなと思いました。また、合唱団の指揮者やモダンバレエの発表会で何度も舞台に出ていて、とても楽しかったのでずっと続けたいと思いました。そしたらドラマと映画に出ることができたんです。俳優は最初は難しかったけれど、練習したらできるようになってとても楽しかったので、また俳優をしてみたいと思いました」と葵さん。
俳優として活動したのは、ご縁があったからのようです。俳優を経験しその魅力に気づき、もっと演技をしたいと感じた葵さん。ドラマや映画のおかげで夢が広がったようです。
現在は、さまざまなインタビュー取材やダンスのイベントに出る回数が増えてきたため、ダンスの練習をしているそうです。
俳優として活動するにあたり、今は音読や言葉の練習に励んでいる葵さん。ドラマの撮影のときは台本を家で何度も読んだそうです。家族と一緒に場面とセリフの意味、気持ちを考えました。関西弁で話さなければならず、音声を聞いてまねる練習も。関西弁は言えるときと言えないときがありましたが、セリフは覚えないと迷惑がかかるため、頑張って何度も読んで覚えたそうです。
葵さん自身、関西弁がかなり大変だったと話してくれました。
「朝早く現場に行くことが多いのは大変でしたが、楽しいことはいっぱいありました!他の俳優さんと演技をするのが楽しいし、ご飯のときにおしゃべりできるのも楽しかったです。上手にできるとみんなが褒めてくれることがとても嬉しかったです」と苦労がありながらも、やりがいもあったようですね。
障がいのある人が連続ドラマのメインキャストとして選ばれたのは、今回のドラマが日本で初めてだったそうです。プロデューサーの方が、「私たちにとっても初めてのことなので、皆でチームとなって一緒に取り組んでいきましょう!」と言ってもらえたことが心強かったとお母さん。
「葵は演技初心者でしたが、言葉や歩き方、表情などを見てくださった方が『ダウン症がある人ってこういう感じなんだ』と自然に感じ取ってくださっていたら嬉しいね。と葵と話していました」とお母さんは当時の気持ちを教えてくれました。
連続ドラマでエキストラの方を募集した際に「初めて障がいのある方々が応募してきてくれた!」とエキストラ会社の方や原作者の岸田奈美さんたちが喜んでいたとのこと。
葵さんが出演していることで「自分にもできるのでは!」と応募した人もいるようです。障がいがありながらも俳優になりたいという人が、俳優として出演する場が増えていく社会になるといいですね。
また、ドラマと同じプロデューサーの人が作った”聴覚障がい当事者の方々が出演したドラマ”を見たお母さん。手話での演技に圧倒されたそうです。「手話に、その方がこれまで重ねてきた人生を感じ、説得力があり、深く引き込まれました。またぜひ見てみたいです」と葵さんのお母さんは話します。
見てくれる人にハッピーを
俳優を始めてからの生活について「俳優として活動し、集中力がついたと思います。本番は集中して監督さんに言われた通りにするからです。あと、健康に気をつけて過ごすようになりました。健康でないと、撮影に行けなくて迷惑をかけるからです。早寝早起きをして、サプリメントを飲んでいます」と健康も意識し始めた葵さん。
ドラマに出演してから、たくさんの人たちが「ドラマ見たよ!感動した」と言ってくれました。学校、幼稚園、習い事の先生だけでなく、友だちや親戚、近所の人やInstagramを見てくれた人たちなど多方面から反響があったそう。葵さんは「照れるけど、とても嬉しいです。撮影を頑張ったし、俳優さんやスタッフさんが大好きだからです!」と喜びを滲ませます。
俳優を続けていくことで「見てくれる人にハッピーを届けられるように頑張りたいです。僕はいつもハッピーなので、幸せを届けたいし、みんなの笑顔が大好きです」と葵さんは意気込みを話してくれました。
また、今後の目標を聞くと「俳優やダンサーをしたいです!また演技をしてみたいです。ハリウッドの映画に出てみたいです!今度、ニューヨークの国連本部でスピーチをするので、英語を頑張ります。歴史が好きなので、大河ドラマにも出てみたいです。この前、江島神社で”舞い”をしたときに、初めて大河ドラマのような着物を着れて、嬉しかったです。あと、僕はモダンバレエの名取(名取名「駒葵」)で、踊りが得意です。4月のバディウォーク東京で初めてジャズファンクというダンスに挑戦するので、ダンスのプロにもなりたいです。そして、世界中のダウン症の人たちとパーティーをしたいです!先輩たちみたいにひとり暮らしがしたいです!」とたくさんの夢を語ってくれました。
夢に向かって頑張る葵さん。3月21日の世界ダウン症の日にはニューヨークの国際連合本部でスピーチをすることになったそうです。ポジティブな姿を見て勇気づけられる人も多いと思います。これからも葵さんの活躍が楽しみです。