2023年大阪でエイルシグナルという化粧品メーカーを立ち上げた松尾信子さん。化粧品メーカー社長という華やかなイメージとは裏腹に、これまでの道は決して平坦ではありませんでした。
18歳で出会った男性と28歳で結婚。借金は800万円
松尾さんは18歳で知り合った男性と28歳で結婚。29歳で長男、32歳で次男を出産します。
「若かったこともあって収入以上に支出がかさみ、借金は私だけで800万円ほどになっていました。だから、次男は生後6ヶ月で保育園に預けて仕事に出ました。営業をメインにいろんな業界を渡り歩きましたね」
なかでも保険の営業は長く続いたそう。「その会社は給与体系を自分で選択できるところだったんです。個人プレーで稼ぐか、チームで稼ぐか選べた私は、迷わずチーム制を選択し、一丸となって取り組みました。新人育成部門では全国でも常に上位で表彰されるくらい、いい成績を収めました」。結果的に松尾さんの収入は上がり、35歳のときに借金を返済できるまでになったのです。
借金返済後、マンションを購入。専業主婦へ
借金を完済したのち、36歳の時に家族みんなでゆったり暮らせるマンションを購入。ご主人の仕事も軌道に乗り、松尾さんは専業主婦になります。
「子ども中心の生活が続きました。私は家事はすべて自分がしないと気が済まないタイプだったので、主人が多忙で家を空けることが多かったものの家事を手伝ってほしいと思ったことは一度もありませんでした」
父親不在のことが多かった家庭。でも松尾さんは「お父さんがお仕事頑張ってくれているおかげなのよ」と話し、ご主人への不満を子どもたちに聞かせることはありませんでした。
しかし、長い期間に及ぶすれ違いの生活は松尾さん夫妻に破綻という結果をもたらすことになるのです。
離婚で傷ついた母 支えたのはふたりの息子だった
すれ違いの生活の末に、待っていたのは離婚。ただ離婚にたどり着くまでにはさまざまな感情が絡み合ったといいます。感情の整理が追いつかず、食事も喉を通らない状態が続き、痩せてうつ状態に陥ってしまった松尾さん。体を動かすこともままならない状態を支えたのは、ふたりの息子さんでした。
「息子ふたりが“俺たちが支えるから大丈夫や”といって私の精神的な支えとなってくれました。今があるのは息子たちがいてくれたおかげと思っています」
“前を向いて生きていこう”
そんな気持ちが生まれたとき、目に留まったのが普段から愛用している炭酸ガスパックでした。
松尾さんは思いました。
「自分が大好きで愛用している炭酸ガスパックをもっとたくさんの人に知ってもらいたい。これを仕事にできたらいいな」と。
その情熱だけを頼りに、松尾さんは再び社会へ出ます。炭酸ガスパックを仕入れて販売するというビジネスを始めました。
素人から入った化粧品業界 SNSの発信により全国のエステサロンへ
炭酸ガスパックの良さはユーザーとして理解していたけれど、化粧品業界のことは何も知らない、自称“化粧品をよく知る素人だった”という松尾さん。しかし、SNSで発信していくと、少しずつ全国のエステサロンから声がかかるようになってきました。
「興味を持ってくださるサロン様にサンプルを送ると、体感したオーナーさんはその良さを認めてくれ、すぐに取引が決まりました」
さらに、サロン側から売り方についてアドバイスをもらえたことで、お試しの5個入りと25回分セットのパッケージができました。「サロン様との商談は、なるほどな、と思うことばかりで、仕事をしながら学びの連続でしたね」。
“特別なケアを日常へ”というコンセプトのもと商品開発。会社を立ち上げることに
その後、松尾さんは既存の炭酸ガスパックをさらにブラッシュアップさせるため、開発に踏み切ります。開発では、塗ったあと垂れないという使いやすさはそのままに、2種類のヒト幹細胞培養液を含む美容成分をプラスし、買いやすい値段に設定。
そこには、 “特別なケアを日常へ”という思いがあったからです。その思いはそのまま商品のコンセプトになりました。
自社商品をつくり、メーカーとしてのポジションを確立。化粧品会社の社長となった松尾さんはさらにオールインワン化粧品も開発。化粧品メーカーとしての礎を築いていくのです。
実は、会社設立時から現在に至るまで、松尾さんを陰ながら支える息子さんの存在がありました。
長男の颯さんは松尾さんから化粧品会社立ち上げの話を聞き「おかんと一緒に会社を作って自分の力を試したい」と就職していた会社を辞めて東京から帰阪。共に会社を立ち上げた立役者です。
今も颯さんはパフレットやホームページ制作、パッケージデザインのディレクションや商談など幅広い業務をこなし、松尾さんをサポートしています。
辛い時代を乗り越えて、成功に至った理由をお聞きすると、
「まだまだ成功とは思っていないですけど、私の生き方がどなたかの励みになるなら」と前置きをして話してくれました。
「私の場合、大きな夢を掲げてきたのではなく、目の前にあったやるべきことをコツコツやってきた結果です。そして、メーカーの社長となったからには、“サロン様やお客様が輝けることが一番の幸せ”と思って仕事をしています。あとは周りの人に恵まれたと思います。ビジネスを通して知り合った人はもちろん、ふたりの息子の存在にも本当に助けられてきましたから」。
今、松尾さんはビジネスパートナーとともに、マイクロバイオームという新しいジャンルでの化粧品開発に挑戦しています。「これも金社長という人との出会いがあったから実現したことです」と話してくれました。
ユーザーとしての感覚を忘れることなく、常に相手に対してリスペクトを抱く姿勢が、たくさんの人を惹きつけている松尾さん。今後の活躍にも注目です。
